その逞しい男は、交わっていた。 一目で戦士と判る強靭な肉体を持つその男は、ただ一心不乱に交わっていた。 ずゅっ、ずゅぷっ、ぶちゅっ、ばちゅっ、ずゅぷっ、ばちゅんっ 男が腰を動かし、その巨躯が揺れる度に、結合部から湿った男が響く。 「あっ、あ゛あ゛ッ! ぐゥゥッ!」 掠れた雄叫び。 男は深い突きを放ち、己自身を奥底に擦り付けるように腰を小さく震わせる。 結合部から男の中へと流れ込んでくる、快感。 男が、男の肉体が欲して止まなかったもの。 「ぐゥゥ、お前はァ、お前の全ては、っ、俺のッ、ものだァ……」 喘ぎ交じりに、男は『相手』に語り掛ける。 ともすれば暴走しそうになる衝動を、男はギリギリで抑えていた。 「今ァ、今だけはァ、俺のッ、俺の全ては、お前ッ、のっ、ものだァ……ッ」 鬼神の如き形相。 戦闘中ですら見せたことのない、男の『雄』としての表情。 「お前と、ッ、子を、生したいッ……俺の、俺の体がッ、お前を、っく、お前を求めてッ、ンンッ!!」 狂気じみた熱を帯び始める男の声。 上気した顔は朱に染まり、余裕を無くしつつある瞳には、ギラギラとした本能の輝きが現れている。 「んんゥッッ!!」 お前と子を生したい。 その言葉に対する肯定を示すかの如く締め付けられ、完全に密着した男と『相手』。 燃え盛る火に石炭を放り込むように、男の肉体内部で渦巻く性欲の炎に次々と送り込まれていく至上の快感。 男は一瞬目を閉じ、堪らないと言いたげな表情を浮かべる。 剥き出しになった歯。歯列の隙間から、唾液が滴る。 「そうっ、か、ッお前も、俺と、同じ、かッ……」 くぅっ、と唸りながら、男は小さく身震いする。 逞しい、逞し過ぎる赤銅色の肉体。浮き出た無数の汗が珠となって、数多の傷跡が残る武骨な肌を滑り落ちていく。 「ンッ、が、アァ……、作る、っ、作るぞォ、俺と、ッ、お前のッ、子供ォッ」 それは『雄』としての本能なのだろう。 男は丸太のように太い腕で『相手』を抱き締めながら、自らの巨躯と『相手』の身体を密着させる。 誰にも渡さない。そう宣言するかのように。 「んんんッッ!! くッ、ああァ!!!」 両手の指では全く足りぬほどの数の女と経験してきた男が、初めて遭遇する感覚。 最奥まで到達し、内部を舐り尽くすように『相手』の中を味わい続けている男の肉槍。 勃起の極みにある剛直は、第二の心臓かと紛うほどの力強い脈動を繰り返している。 常ならば、既に男の体内から吐き出されている筈の精髄。しかし濃縮された生命力そのものであるそれは、未だ男の内部で渦巻いていた。 股間に垂れ下がってる一対の『器官』。種子を生み出し蓄える、成熟した性欲の具現たる果実の内部で。 「ぐッ、ゥ、ゥ、ンンッ、くぅぅゥ……」 絞り出すように、男は喘ぐ。 甘い疼きが、男の肉体を苛んでいく。 両腕。両足。腹、胸板。そして性器。 『相手』の感触を触覚として受容する度に、甘い疼きが波となって男の全身へと拡散していく。 皮膚の内側から輪郭をなぞるように、ぞわぞわとした波が、次から次へと絶え間なく男の肉体を駆け巡る。 甘い疼きに揺さぶられ生じた不快感のような快楽は、男の脳髄を容赦無く責め立てていく。 処理容量を超えつつある男の頭。意識の中で弾ける白い火花が、時折男の視界を遮る。 「ふゥゥ……、ンンッ、あァ」 眼球の奥底で燻るちかちかとした白い点滅を振り払うように、男は顔を上げ小さく左右に振る。 頭の芯が熱を持っていくのを、男は明確に感じ取っていた。 質量を持った形の無い『何か』が、絶え間無く動かされ続けている腰の奥を、隙間無く埋め尽くしている。 出したい。『相手』の中に、己の全てを。 「うッ、ぐうゥ、がああぁぁッッ!!」 男は吼えた。 声と共に、ねっとりとした唾液が『相手』の上に垂れ落ちる。 筋肉の塊のような男の尻。その側面がへこみ、ひくひくと動く。 『相手』の最も深い場所に打ち込まれている男自身。最早暴君と化している剛直を更なる深みへ到達させるように、男は幾度も幾度も突き上げる。 ただ『相手』と子を生す。男の『自我』と『本能』と『肉体』の目的が、完全に一致した瞬間だった。 「ぐおおおおおぉぉぉッ! 作るッ、作るぞォッ!! がああッッ! お前のッ、中にィッ、俺のォォ!! 種付けッ、種付けだッ! 俺の、種をッ、全てっ、お前にィッ!!!」 それは男の口を借りた遺伝子の叫びだったのかも知れない。 抜けてしまわぬよう、漏れ出てしまわぬよう、『相手』内部の強烈な締め付けを捻じ伏せるように、更に体積と硬度を増していく肉根。 興奮によって脈拍が速くなっていくにつれ、男の全身から汗が噴き出し、身体からぽたぽたと滴り落ちていく。 「! ぐううゥゥゥゥゥゥゥッッ!!」 どぅぷどぅぽどぅぷどぅぷっ! 周囲の空気まで震わすような唸り声と共に、男は精髄を解き放った。 『相手』の中を埋め尽くさんばかりの大量の精液。 「ぐうぅッ、ぬふっ、ん、ぐう、んッ! んぬ、ふゥッ!」 本懐を遂げた筈である男は、尚も腰を動かし続けている。 自らの内で未だに燻り続けている濃厚な精髄を絞り出し、より確実な受精を望むかの如く。 「んんッ、ぐぅ、ぬぅッ、あああ……お前ェ、おまえ、ゥ、ぬッ……くふゥ、俺の、ォ、俺の、愛しい……女……ァ」 容赦無く脳髄を灼く射精の快感。 肩を大きく上下させ、喘ぎ交じりに言葉を吐き出していく。 『相手』‐妻を求める男の言葉。だが、『妻』の姿を其処に見ているのは男だけだった。 男が交わり、腰を動かし、精を注ぎ込み、子を生さんとしている『相手』。 それは。 「はあっ、はあっ、ぁぁ、お前ぇ……」 荒い息を吐き出しながら、男は言葉を紡ぎ出す。 短い無精髭に覆われた顎の先から滴り落ちていく汗。 射精の後の脱力感のせいだろう、男は『相手』にのしかかるように体重を預ける。 『相手』との間に挟まれ、良質な筋細胞で満たされた分厚い胸板がひしゃげる。 「……んっ、んぅ、んんッ、ン、ぅ、んッ、んゥゥ……」 男は『相手』の上に唇を落とし、何度も接吻を繰り返す。 オアシスを見つけた旅人が、泉の水を欲するように。 『相手』もそれに応えるように、短い触手を男の唇へと挿し入れ、舌に絡み付かせる。 唾液と粘液が混ざり合い、ぬちゃぬちゃという音が立つ。 南方蛮族最強の戦士と呼ばれた男お、『相手』との深い接吻。 舌と触手、唇と体表の接触で生じる熱が、男の意識を蝕んでいく。 深い接吻と共に熱い吐息が漏れる度に、未だ挿入したままの剛直を突き上げ、精髄を、もう種も含まれていない薄い前立腺の分泌液を『相手』の内部へと吐き出していた。 半透明な『相手』の中に透けて見える、夥しい量の精液。 余りにも濃厚過ぎる薄黄色を帯びた遺伝子の塊は、『相手』の中で拡散することなく、『父』の体内から撃ち出されたままの形で漂っている。 男が交わり、愛し合い、精液を注ぎ込み、子を生さんとしている『相手』。 男が『妻』の姿を見ている『相手』。 それは、戦士である男ならば何の問題にすらならないような『相手』。 スライム。透明または半透明の体を持つ、本来は脅威になり得る筈のない、魔物の食物連鎖の最下層に位置する不定形生物。 「んんッ……っく、ぬッ、……くっ、ふ……ゥ」 半分閉じかけている男の目。 脱力感と熱から来る眠気が意識を完全に塗り潰す直前、男はスライムから唇を離した。 ずゅっ、……ぬゅぽ…… 緩慢な動作でスライムから体を離すと同時に、完全に力を失った陰茎を、男はスライムの内部から引き抜く。 結合部から漏れ出た、細かい泡を含んだ粘液。 ぶるんと大きく揺れる男自身から、スライムから漏れ出たものと同じ粘液が滴る。 「はあっ、はあっ、……はあっ、はあっ……」 胸板を大きく上下させながら、両手両足を大の字に広げ、男は地面に仰向けに寝転んだ。 その傍らには、先程まで男が覆い被さっていたスライムの姿。 円柱を縦に半分にし、平らな断面を下にして地面に置いたような形状の、男の身長よりも大きなスライム。体表から生えた一本の触手が、男の尻へと挿入されている。 そのスライムを中心にして、洞窟内部のこの空間全体がスライムの層で隙間無く覆い尽くされている。 「……ぁ…………」 精を吐き出し尽くした後の疲労感。生ぬるい沼に沈んでいくように、まどろみの中に落ちていく男の意識。 眠りの直前に男の視界が捉えていたのは、木々に覆われ日の射し込まない森の風景だった。 強き戦士とその妻が婚姻の儀を執り行うという風習でのみ足を踏み入れることが出来る、彼の故郷の聖なる森。 男が今いるこの場所は、日の光すら届かない洞窟の奥深くであるにも関わらず。 程無くして、豪快ないびきが空間全体に響き渡る。 男が、完全に眠りに落ちた証拠。 空間を震わす大音声を体表で感じ取り、スライムは行動を開始する。 男の意識と思考の支配が完全な状態であるかどうか。スライムはそれを確認し始めた。 尻へと挿入されている触手。直腸内を満たしている触手の先端部は、体内で最も密度の高い直腸の神経巣にアクセスされている。 神経巣から仙椎、腰椎、脊髄を経由し脳へと、目に見えぬ意識の触手を延ばしているスライム。 既に開拓されている『通り道』を辿りながら、改めて男の意識の中心へと到達する。 男の意識と思考の中に張り巡らされ、深層にまで達しているスライムの『触手』。 網の目のように細かく、根のように深く深く入り込んだそれに僅かな綻びすらないことを確かめると、スライムは満足げに体を震わせた。 この男の意思と思考は完全にスライムによって支配され、コントロールされている。故に、男は自分が何者かに精神支配されていることに気付けていない。 男は、自分が見ているものが現実であると信じ、それが真実ではないことに疑いすらしていない。 スライムが男の記憶の中から拾い上げ選別した生殖行為に関する記憶が、脳の視覚野に投影されているだけであるのに。 深い睡眠状態にある男の意識と思考を、スライムは丹念に読み取っていく。 何と好色で、何と性欲が強いのだろうか。 強固な肉体と強靭な生殖能力を兼ね備えたこの男は、今まさに、無数の女と交わる夢を見ている最中なのだ。 先ほど、造精器官内部に溜め込んだ濃厚かつ大量の精を放出し、あれほどまでに快楽を貪ったばかりだというのに。 「……がっ、ごががっ、ごがっ、ごが……ごがー……ごがー……」 豪快ないびきに呼応するかのように、脱力している男自身がぴくぴくと動き、勃起する兆候を見せる。 大きく広げられた丸太のような両足。 隆々とした筋肉に覆われた太腿では支え切れず、太腿の内側から会陰部を覆い隠すように零れ落ちた、薄い皮膚に包まれた双玉。 鶏卵よりも更に一回りは大きな其処の上にへたり込みながら、男の肉槍は小さな脈動を繰り返している。 ぷるぷるっ…… 一瞬、スライムの体が小刻みに震え出す。 そして次の瞬間、半球状のスライムの体の表面から汗がにじみ出るように、非常に小さな数えきれないほどのスライムが出現した。 『親』であるスライムの内部で漂っている、未だ薄まることのない濃厚かつ大量の白濁。 男がスライムと交わり解き放ったそれが、『本来の使い方』で使用されたのだ。 スライムが養分として消化、吸収するのではない、『本来の使い方』。 受精。 スライムの核が生み出した目に見えぬほど小さな『スライムの素』となる細胞。その内部に男、つまり人間の雄性生殖細胞である精子を取り込ませたという、『本来の使い方』。 この砂粒ほどの大きさのスライム達は紛れもなく、南方蛮族最強の戦士である男の遺伝子を受け継いだ『子供』なのである。 『子供達』は『母親』の体から滑り落ちていくと、『父親』の身体を目指し這い動いていく。 適度な湿度と、空間の表面を覆うスライムの層。 水分を吸着する働きの強い石灰岩質の洞窟ではあるが、それらに守られ、生まれ落ちたばかりの『子供達』が干からびることなく生育出来る環境が整っている。 もっとも、砂粒ほどしかない彼らにとって、人間の基準での僅かな距離ですら大層な道のりではある。 無事に『父親』の元へと辿り着いた『子供達』は、急峻かつ険しい筋肉の岩壁にへばり付きながら、『父親』の身体を這い登っていく。 「……がーっ、がーっ……ごがっ、ごがー……」 男には目を覚ます気配も、自身の身体を這う無数の感覚に気付いた様子もない。 鍛え上げられた筋肉を内包した皮膚をなぞり、愛撫するように蠢く『子供達』。 人間ではない彼らにとって、その行為は食事だった。 しみ出る汗、古くなった角質や垢、抜け落ちた体毛。 男の肉体表面の老廃物を取り込み、それらを栄養分として徐々に成長していく微細なスライム達。 結果として男の身体を清潔に保っている訳ではあるが、『子供達』に課せられた役目はそれだけではない。 ある程度の大きさにまで成長した『子供達』は、二つの『群』へと分かれていく。 一つは、男の顔や頭、陰部に集合していく『群』。 毛髪、髭、陰毛。 それぞれの長さを測るように毛の根元から這い登っていくと、その『群』のスライム達は毛の先端部だけを消化し始めた。 伸びる速度が速い体毛を、一定の長さに維持する役目を課せられた『群』。 ほんの僅かな違和感から精神支配に綻びが生じるのを防ぐという、『母親』であるスライムの強かな戦略。 もう一つは、男の口元へと集合していく『群』。 大きないびきをかき続けている全開の口の中へと飛び込み、男の体内へと消えていくスライム達。 その『群』に課せられた役目は、簡潔に言ってしまえば掃除だった。 胃、小腸、大腸、肝臓、膵臓、脾臓。 腹部に収納されている消化器官内へと入り込み、異常な細胞や老廃物を食らうという役目。 体内を健康な状態に保ち、『父親』である男を生かし続けるという『母親』の意思。 全ては、増殖するというただ一つの目的のためなのだ。 男から精を搾取し、遺伝子と共に吐き出される生命力を養分に成長し、更に男の遺伝子を受け継いだ『強い子供』を生み出し一族を増やしていくという『本能』。 人間の意識を読み取り、理解することが出来るほどに高度な思考が可能な意識を持っている、突然変異とでも言うべきスライム。 そんなスライムであっても、種として最優先にすべきその『本能』には逆らうことは出来ない。 男の内臓を掃除する役目を課せられたスライム達は、役割を終えると自ら融解し、『父親』の体内に栄養分として吸収されていく。 勿論、男の巨躯が必要とする栄養を、それだけで完全に賄うことは出来ない。しかし、男の肉体が活性化している原因は、融解したスライム達を栄養としているということも一因なのだろう。 体毛を剪定する役目を課せられた『群』が役割を終え、スライムの層の内部に入り込んでいく。 洞窟奥深くに広がっているこの空間の表面を覆い尽くしている『層』もまた全て、男がスライムと交わり誕生した『子供達』なのだ。 不意に、男が発していたいびきが止む。男の意識が、夢すらも見ない眠りの深淵へと落ちていった証し。 『本体』であるスライムは別の触手を伸ばし、それを男の口腔へと射し入れると、栄養分を体内へと流し込んでいく。 男の肉体を維持し、老化速度を極めて緩やかなものにする、特別な栄養分。 スライムによって栄養が補給される限り、『子供達』によって体内の掃除が為され続けている限り、男は老いもしなければ死の要因となる病的変異も発生しない。 そして男によって養分と遺伝子が供給され続けている限り、スライムもまた、衰退もしなければ死滅することもない。 強制的、そして一方的な相利共生。 男がスライムによる支配から抜け出さぬ限り、その関係が崩れることはない。 南方蛮族最強の戦士である男。 妻との間に三人の子を生した、強き父親でもある男。 洞窟奥深くの空間を覆い尽くすまでに増殖した、スライム達の父である男。 人知れず繁栄を極めているスライム達の、王と呼ぶべき存在となった男。 スライムに意識を完全に支配され、濃厚かつ優秀な『精』を捧げ続ける奴隷と化した男。 外界から完全に隔絶された柔らかい牢獄の囚人は、時の流れをその身に刻むこともなく、ただひたすらに同じ『日常』を繰り返し続ける。 男の脳内で再生されては消去を繰り返し続けている、『妻』との婚姻の儀の記憶。そして、その記憶から紡ぎだされる『日常』を。 ……ぶる…………ぶるっ…… まだ足りない。 そう言いたげに、スライムは微かに体を震わせた。 ◆◆◆ ……すぐに一番奥に行き着く、と聞いていたのだが…… 青年は訝しみながらも、その歩みを止めようとはしない。 白みを帯びた石灰岩質の洞窟の中は比較的明るく、燐光を放つ水晶が岩肌から所々露出しているおかげで、照明となるものさえ必要ないほどだ。 青年は周囲の気配を窺いながら、子供の背丈くらいはある大剣を構え、歩を進めていく。 白い岩肌に映える、浅黒い肉体。短く刈られた焦げ茶色の髪は、毛を逆立てた猫のように立ち上がっている。 一般人よりは大柄ではあるが、戦士としては平均的な背の高さ。 その全身を覆う筋肉は、生半可ではない鍛錬を重ねてきた証だろう。厚い胸板、深く割れた腹筋、丸太のような四肢が、それを雄弁に物語っている。 大小無数の傷跡が残る上半身を惜しげもなく晒し、丈の短い黒い毛皮をマントのように、留め具で首に引っかけている。 身体の線に密着したズボンで腰から膝上までを覆い、足元はなめし革で作られたブーツで覆われている。 装備に革製品を多用する。南方蛮族によく見られる慣習だ。 青年は二十代半ばといったところだろうか。やや彫りの深い眼窩に収められた緑色の瞳には、明らかに年相応ではない光を宿している。 この年齢にして、幾多もの経験を積んできた証だろう。 青年は慎重さを保ちながら、洞窟の中を進み続ける。 彼の脳裏には、焦燥感などというものは無かった。 今は麓の村で受けた依頼を果たすことだけに集中していればいい。この洞窟に棲みついているスライムを討伐する、ということだけに。 森の奥深く、黒々とした木々が鬱蒼と生い茂る山裾に、その洞窟はあった。 『スライムの洞窟』。 森の中を迷い、付近を偶然通り掛かった冒険者の一団が、洞窟の中に大量のスライムが生息しているのを目撃し、近くの村に報告した。 そんな出来事が、洞窟がこの名前で呼ばれるようになった由来だと言われている。 この洞窟の存在自体は、付近の村では古くから知られていた。しかし『スライムの洞窟』などという呼び方はされず、単に森の奥深くにある洞窟といった認識でしかなかったようだ。 一番近い村からですら歩いて丸二日程度は掛かり、滅多に人も立ち入らないという環境。 それ故、この洞窟に関する様々な伝説や噂話が村人達の間で語られていた。 曰く、地中に棲む巨大な蛇が這い出た跡である。 曰く、洞窟の最深部には強大な力を持つ怪物が眠っている、等々。 しかしながら現在では、そのような話は全く語られなくなった。 洞窟には大量のスライムが生息しており、中もそれほど深い訳ではない。 冒険者によってもたらされた洞窟に関する情報が、いつの間にか村人達の間から伝説や無責任な噂話を駆逐してしまったのだろう。 実際、その洞窟の内部には、通常では考えられないほど夥しい数のスライムが生息しているのだから。 冒険者によって伝えられた情報は、村に新たな問題を浮上させる結果にもなった。 洞窟の中にいる大量のスライムをどうするか。 最下級、底辺クラスの魔物。弱点である核を攻めれば倒すのは容易なため、新米冒険者の戦闘訓練には最適な相手。とはいえ魔物であることに変わりはない。 今のところは洞窟とその近辺を徘徊している程度ではあるものの、もしも村の周辺にまで出没するようになった場合、脅威となる可能性がある。 村人達による相談が重ねられた結果、年に一、二度程度の割合で、村に立ち寄った冒険者に洞窟とその周辺に生息するスライムの討伐依頼するということになった。 そして、今回の討伐依頼を受けたのが、偶然この村を訪れていた蛮族の青年だった。 洞窟周辺のスライムを駆除し、洞窟へと足を踏み入れた青年。 確かにスライムは生息してはいるものの、話に聞いていたような夥しい数という訳でもなく、おまけにすぐに行き止まりになっていると聞いていたにも関わらず、洞窟は奥深くへと続いていたのだ。 (しかし……) 周囲を警戒しつつも、青年は疑問に思う。 (随分と歩いたと思うが、一番奥に行き着く様子が全く無いな。これだけ奥に続いているような道を、他の連中が見逃す訳がない。どういう事なんだ……?) ふと頭によぎる不信感。 そのときだった。 ずっ……ずにゅっ…… 青年が歩いてきた道、その後方から、突然奇妙な音がした。 知らずに沼に踏み入れたときのような、明らかに水分を多く含んでいる音。 反射的に青年は振り返ると、音がした場所へと剣を構えたまま走り寄る。 「なっ!?」 その光景を目にし、青年は思わず声を漏らした。 透明な『何か』が四方の岩肌から滲み出し、青年が通ってきた道を塞いでいく。 「くそっ!」 『何か』へと勢いよく大剣を振り下ろす青年。 幾多の魔物を粉砕してきた一撃は、寸分違わず『何か』に命中した、のだが。 「ッッ!?」 それは、粘り気の強い液体に棒を突き立てて掻き混ぜた感触に近いかも知れない。 僅かに押し戻すような微妙な抵抗が、大剣を通じて青年に届く。 斬撃は確かに『何か』を切り裂いた。 しかし斬撃をその身に受けた瞬間から『何か』は再生し、大剣の軌道に沿って出来た隙間を瞬く間に埋めていく。 攻撃を受けたことが刺激となってしまったのだろう。『何か』は先ほどの倍以上の速度で空間を満たしていく。 青年が驚きの表情を浮かべるよりも先に、『何か』は道を完全に塞いでしまった。 「ああっ、くそッ!!」 腹立たし気に、青年は『何か』に向かって拳を打つ。 触れたのは、予想に反した硬い感触。 つい先ほどまで柔らかかった『それ』は、一瞬の間に岩のように固く氷のように透明な壁へと変化していた。 しかし、変化はそれだけではなかった。 「!! どうなってるんだ、これは」 完全に道を塞ぐ透明な障害物と化していた『何か』が、ゆっくりと色を変えていく。 中に煙が充満しているかのような灰色の濁りが、透明な壁を満たしていく。 濁りに満たされ完全に色を変えた『それ』は、灰白色の岩肌へと、その見た目を変化させた。 青年の前にあるのは、もはや洞窟の岩肌との境界すらあやふやになった『何か』。 「……まさか」 すぐさま青年は答えに辿り着いた。 他の冒険者達が目にしていた、そして村人が言っていた『それほど深くない洞窟』の正体。 体の色を変えることで周囲の風景に溶け込む能力を持つスライムがいることを、青年は知っていた。 だが、そのようなスライムの生息している場所からは、この洞窟は大きく外れている。 恐らくは、眼前で壁と化したスライムが、洞窟の奥へと続く道を塞いでいたのだ。 「しかし、聞いたことが無いぞ。体の硬さまで変えられるようなヤツなんて……」 青年の背筋に、思わず冷たいものが流れる。 この洞窟には、普通のスライムではない何かがいる。 確信にも似た予感を抱きながら、青年は再び奥へと歩き始めた。もっとも、引き返す道を塞がれた以上は、前へ進むしかないのだが。 青年はより慎重に、臨戦態勢を取りつつ進んでいく。 ほんの少しだけ湿り気を増した空気が、青年の鍛え上げられた上半身を撫でる。 にじみ出た汗が体を伝い落ち、地面へと滴っていく。 静寂。 この洞窟には、普通の生物の気配が全く感じられない。 コウモリやクモ、ムカデなどといった暗い場所や土の中に近い環境を好む、洞窟ならば居て当然の生物の姿すら見当たらない。 その事実が、この洞窟が通常のものとは違う異様なものであることを、如実に物語っていた。 更にしばらく洞窟を進んでいく。終わりすら見えない長い洞窟に、青年の顔に僅かに浮かぶ疲労の色。 そのとき、不意に何かの音が青年の耳に届いた。 反響を繰り返しているのではっきりとしないが、大きな獣が咆哮を繰り返しているような音。 青年は駆け出していた。 奥へ奥へと進んでいくほどに、明瞭になっていく音。 (これは、唸り声……か? 恐らく、獣ではなく人間の、しかも男の声) 何処かで聞いた覚えがあるような、しかし何処で聞いた聞いたのかは思い出せない声。 頭の中に少しの疑問と戸惑いを浮かべつつも青年は走る。 そして、青年は行き着いた。『声』の発生源であるその場所に。 「……なッ……!」 青年は思わず絶句した。 洞窟の奥深くに在った広大な空間。 卵形を平らにしたような空間は湿った空気で満たされており、漏れ出ていく生ぬるい風が、唯一の出入り口で立ち尽くす青年を舐めるように通り過ぎていく。 地下深くに広大な空間が形成されていること自体は、それほど珍しいことではない。 青年が思わず言葉を失ってしまったのは、その空間に広がっている異常な光景のためだった。 石灰質の白みを帯びた岩肌と、所々で露出している淡い輝きを放っている水晶。それらで形成された空間の表面全体が、スライムで覆われていた。 無作為かつ不規則に分裂と合体、融合を繰り返しながら蠢いているスライムの『層』。 その様子はまるで、臓物が脈打つようにも、何かしらの虫の幼虫がひしめき合っているようにも見える。 『層』は水晶が放つ淡い光を吸収し、『層』自体が発光しているかのようだ。 だが、青年の目を釘付けにしたのは、その光景ではなかった。 スライムに覆われた空間の中心。楕円形をした『層の盛り上がり』の上に俯せに圧し掛かっている、尻に触手を挿入された全裸の男の姿。 筋肉が浮き出た丸太のような四肢で『盛り上がり』を挟み込みながら、一心不乱に腰を動かし続けている。 「あッ、ぐッ、くふ、ゥゥ! お前ェ、お前ェェッ!!」 逞し過ぎる浅黒い巨躯が揺れる度に、男の口から快楽の咆哮が放たれる。 青年の居る場所から辛うじて見える男の横顔と、男の声。 青年は、確かにそれに覚えがあった。 「……ッ……!! まさかッ……親父……なのか……?」 青年が目にしているのは紛れもなく、南方蛮族最強の戦士と呼ばれた父の姿だった。 「何で……、親父が……、何で、こんな所に……」 二十年前に消息を絶ち、死んだと言われていた父。 幼少期の記憶にある姿のままの父が、スライム空間の中心に居る。 そう、二十年という年月が経過しているにも関わらず、未だ若い姿のままの父が。 「ぐッ、んんくっ、く、ぉ、ぐ、くふゥ、ぐ、あッ、がああああッッ!!」 じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぶ、ばぢゅっ、ばちゅんっ、ばぢゅんっ!!! 快楽の雄叫びが空間を揺るがす度に、淫猥な音が響き渡る。 「……なあ、嘘、だろ、親父……」 青年の口から、思わず漏れ出る呟き。 青年とて、とうに成人済みの身である。その男‐父が何をしているのかぐらいは容易く理解出来る。 青年の父、南方蛮族最強と呼ばれた戦士は、『子供を作るための行為』をスライムと行っている最中なのだ。 「……っ……まさか……」 『子供を作る』。 その行為が意味するものに気付いたとき、青年はあまりにも忌まわし過ぎる考えに行き着いた。 否、行き着いて『しまった』。 「まさか、まさかッ……」 村人達の言葉が脳裏に蘇る。 完全に退治したはずなのに、何時の間にか洞窟にスライムが住み着いている。 二十年かもっと前は、洞窟にはスライムなんていなかったはずだ。 あの名前で呼ばれるようになったのは、ここ十何年かの間。 それほど深い洞窟じゃないのに、大量にいるスライム。 大量に。 大量に、大量に。 そして南方蛮族における『強さ』とは、戦闘能力のみならず生殖能力の高さも含まれるということ。 「ああぁぁ……」 青年の口から吐き出されたのは絶望。 思わず膝から崩れ落ちてしまいそうになるのを、ギリギリで堪える。 自分が倒した、他の冒険者達が倒してきた、洞窟とその近辺に生息しているスライム。 それらは全て、青年の父とスライムが洞窟の奥の、この場所で。 「あああ、嘘だ、嘘だ……、そんなこと、ある訳が……」 譫言のように青年は呟く。 スライムが人間の『種』を使い、子を生み出す。 普通ならば信じ難い話だが、全ての状況が、それが事実であることを明確過ぎるほどに指し示している。 呆然と立ち尽くしている青年。 そんな彼にようやく気付いたのか、スライムの『層』から無数の触手が、青年に向かって伸びていく。 「あああ! くそっ、くそぉッ、くそがぁッ!!」 子供が八つ当たりをするように、青年は自分へと伸びてくる触手を次々に切り落としていく。 口汚い罵りの声が空間に響くも、青年の父には気付いた様子さえ見られない。 切り落とされた触手は『層』に吸収され、新たな触手へと再生される。 完全な物量攻勢。 斬撃を潜り抜けて青年の体にまで到達した一本の触手が、彼の右足に絡み付く。 動きがほんの少しだけ鈍くなった程度だが、触手にとってはそれで十分だった。 動きが鈍くなれば、それだけ青年の元にまで到達出来る触手が多くなる。 到達出来る触手が多くなるほど、相手の動きを制限出来る。 数で負けて大幅に不利な状況だったにも関わらず応戦してしまったのは、普段の冷静さを欠いてしまっていたからだろう。 青年は無数の触手に絡み付かれ、完全に自由を奪われた。 「くそっ、くそがッ、くそがッッ! くそったれが……」 大剣を絡め取られ、徒手となった青年。 重い剣を楽に扱えるだけの怪力で引きちぎろうとするも、弾力のある軟体の触手には無意味だった。 「くそっ、ちくしょお……ッ……んッ、んぶっ」 なおも悪態をつく青年。黙れと言わんばかりに、触手が次々と青年の口に入り込み塞いでいく。 「ヴ……ッ、ん、ん、んッ……ん、ぶっ、んぶゥ、んぐっ、ん、ヴ、んんゥ」 触手が青年の口腔内を、入れ替わり立ち替わりに犯していく。 歯列を、舌を、舐るように、愛撫するように。 咽頭を突かれ強烈な吐き気を催すも、触手の侵入を阻むことは出来なかった。 「んん……んぅ……んぶ、ヴっ……んむ……ゥ」 息苦しさから来る熱が、青年の身体を苛んでいく。 目に涙を浮かべながら顔を紅潮させている姿は、見る者が見ればこれ以上ない媚態だろう。 穿いている革製のズボンの股間が、大きく盛り上がっている。 青年の身体が、触手の攻勢を快感であると認知している証。 (……ああ、くそ、こんな……所で……ちくしょお……親……父……ィ……) 明るいはずの、スライムの巣窟と化している空間。 涙でぼやけた青年の視界が、ゆっくりと薄暗くなっていく。 息苦しさのあまりに落ちていくのか、それとも、触手達が何かしらの効果を持つ粘液を流し込んだのか。 青年の視界は完全に闇に包まれ、意識は熱の中に溶けていった。 ◆◆◆ 青年が意識を取り戻して最初に目に飛び込んできたのは、ぼんやりと発光する『何か』に覆われた天井だった。 (……?…………、そうだ、俺は、触手に……) 上半身を起こそうとするも、何かに貼り付けられたかのようにピクリとも動かない。 「な、何だ……?」 辛うじて動かすことの出来る首。 青年は辺りを見回すと、自分の置かれている状況を確かめる。 目に入るのは洞窟の壁と、それを覆うスライムの『層』のみ。 手を伸ばせば届きそうな距離には、大の字に寝転がりながら安らかな寝息を立てている彼の父親の姿。 「…………親父……」 青年もまた、大の字で寝転がされていた。 父に向って腕を伸ばそうとするも、やはり体は動かない。 背面全体から伝わってくるのは、ぬめぬめとしたスライムの感触。 青年は一糸纏わぬ姿で、スライムの『層』に捕らえられていた。 それはまるで、粘着式の食虫植物に絡め取られた羽虫の如く。 「くそっ!!」 いかに怪力を振るおうとも、青年の肉体は『層』に固定されたまま動かない。 苦虫を噛み潰したような表情が彼の顔に浮かぶ。 そのときだった。 にゅっ、にゅにゅっ、にゅにゅ、にゅっ…… いささか間の抜けた音が、青年の周囲を取り囲む。 青年の視界を遮るように、『層』から次々と触手が生えていく。 人間の指と同程度の太さの触手。 「っ……、俺も……親父と同じように……!」 当然の如く、返答などあろうはずがない。 触手達は先端を青年へと向けると、その逞しい身体を撫で始める。 「あッ、くっ……、や、止めろ……」 後頭部付近に走る、ぞわぞわとした感触。 人間が愛玩動物を可愛がるときのような愛撫。 鍛え上げられた青年の肉体を、浮き出た筋肉の一つ一つを確かめるようになぞっていく触手達。 触手が纏っている粘液で、浅黒い肌が濡れていく。 「ぅ……! くぅ……っ!」 突然加わった感覚に、青年は思わず声を漏らしてしまった。 他の触手の三倍は太い二本の触手が、彼の胸板へと取り付いたのだ。 先端部で押し潰すように、両乳首へと吸い付く触手。 圧迫により胸筋へと沈んだ乳頭が、触手の吸引で引き出されていく。 「んんッ……! はァ、ッ、く、止めて、くれ!」 微妙な感情の揺れを含んだ拒絶の声を上げながら、青年は己の中に生まれた感覚を否定するかのように顔をしかめる。 頬が僅かに赤みを帯びているのは気のせいだろうか。 青年の言葉に聞く耳すら持たず、触手は行為を進めていく。 乳首を咥え込んだラッパ状の先端部。 その内側に半球形の疣状の突起を生み出すと、青年の乳首を食むように締め付けながら吸い上げる。 「んはッ、ァ……! っく、ぁ、ッ、ンンッ、止めっ……」 乳首を摘まみ上げるように圧迫され、青年は色を帯びた喘ぎを吐き出す。 微かな痛みに顔を歪めるも、それを上回る快感が乳首を立たせる。 圧迫と吸引を続けながら、触手じゃ今度は円を描くように胸板を揉みしだき始めた。 弾力のある良質な筋細胞で満たされた胸板は、触手が動く度にぶるぶると揺れる。 「はぁ、ンッ、ん、止めて、くれ……」 胸を揉まれることなど、当然ながら初めてのことだろう。 青年にとっては未知の感覚であるそれは、彼の体内に確かに熱を生み出していた。 生まれた熱は目に見える『かたち』となって、青年の肉体に反映されていく。 勃起。 つい先ほどまで垂れ下がっていた青年自身に俄かに熱が宿り、その先端を上向かせる。 身体相応の長さだが平均よりはやや太く、完全に剥けている成熟した男根。 「ふああッ、な、何を……!?」 股間に渦巻く熱に触れる、ぬるりとした感触。 仰向けから顔を上げただけの視界では、胸板に遮られ完全に見通すことは出来ない。 だが青年は、何をされたのかを容易に理解出来た。 勃起した肉根に、新たに生み出された触手が巻き付いたのだ。 だぷんという擬態語が相応しい、中に『ぎっしりと詰まっている』であろうことが確実な双玉には目も暮れず、触手は力に満ち満ちた男根の根元から先端へと隙間無く巻き付いていく。 「くうううッ……!」 触手は一度、青年自身を強く締め上げる。 粘液と共に泡となって漏れ出ていく空気。 丸みを帯びた先端部を鈴口に無理矢理捻じ込むと、触手は上下に動き始めた。 「んあッ! ッ、あッ、止めろっ、止めろォ!!」 青年の肉体は、確かに快感を得ていた。 次々に送り込まれてくる快楽が、青年の奥底に燻っていた性欲に火を点ける。 直立し膨張した雄茎は、先刻よりも熱と脈動を増していた。 彼のの体で最も優れた感覚受容機関と化した肉の槍は、更なる快感をねだるかのように、表面に血管を浮き立たせる。 「あッ、ああ……、嫌だ、嫌だァ、俺は、っ、こんなもの、相手にッ、ィ」 拒絶しようとしても、無意識の内に体が求めてしまう。 性的な快楽に飢えていた青年の肉体は、彼の意思とは裏腹に、快楽の頂点を発現させる準備を整えていく。 触手の先端に抉じ開けられた鈴口から、透明な分泌液が溢れ出し始める。 熱を持った先走りは、薄められた蜜のようなとろみを帯びている。 触手、もといスライムにとっては、それは正しく『蜜』なのだろう。 青年の体内から流れ出てきている『蜜』を、巻き付いた触手は体表から吸収していく。 しかしそれだけでは飽き足らず、触手は鈴口のみならず尿道の浅い場所までもを刺激し、先端部でも『蜜』を吸い上げていく。 「ッ、く、ぅ、ゥ、う、うッ、ア、ああッ!!」 身体中を触手に撫で回される感覚。 乳首を吸われ、胸板を揉まれる感覚。 勃起し敏感になった生殖器を締め付けられ、摩擦され、更には責め立てられる感覚。 肉体が受容した感覚が一定の水準を突破したとき、青年の体内にある衝動が生まれた。 本来ならば歓喜すべき、しかし今は忌むべき衝動。 「ぐッ、あ、ンンッ、アッ、ぁ、い、やだ、んゥアッ、嫌だ、ッン、くゥ」 青年の脳裏に、数刻前に目撃した父の姿が浮かぶ。 あの頃の逞し過ぎる姿のままで、妻を抱くように一心不乱にスライムと交わっていた南方蛮族最強の戦士の姿。 嫌悪と奇妙な興奮を催す、あの姿。 「……ぐううゥッ!!」 身体の表面に、微弱な電気を流されたような気がした。 体内の奥深い場所から何かを押し出そうとする衝動が、腹の底で生まれる。 青年の体が緊張し、小さく震えた刹那。 「はあッ……! っ……あ……?」 与えられていた感覚の供給が、一度に停止した。 盛んに蠢いていた触手達は完全に動きを止め、青年から離れて『層』内部へと戻っていく。 乳首に吸い付いていたものも、男根に巻き付いていたものも、全て。 「……っ、ぁ、はあっ、はあっ、一体、何が……」 大きく胸板を上下させながら、青年は呟く。 紅潮した顔と、潤んだ瞳。 快楽を得られる行為の中断を抗議するかのように、力強い脈動を繰り返しながら粘液を溢れさせ続けている剛直。 達する寸前で止められ、青年の中で渦巻き始めてしまう不快感。 ずゅっ、ぐん、ぐぐっ…… 息つく暇も無く、何かが盛り上がってくるような音。それは青年の足の間から聞こえてきた。 胸板越しに見えたのは、直立した己自身と、それと同じくらいの高さの『盛り上がり』。 「なッ……!!」 青年は思わず父の方を見遣る。 相変わらず安らかな寝息を立てている南方蛮族最強の男と、彼の近くで動かない『盛り上がり』。 青年の足の間に居る一回りか二回りほど小さな『盛り上がり』は、確実に新しく生み出されたものだ。 ぷ、ぷぷ、ぷつ、ぷつ、ぶつん! 何かが千切れるような音がした。と同時に、青年の体に這い登ってくる『それ』。 『盛り上がり』は『層』から分離し、一個体のスライムとなっていた。 人間のよりは赤子と同じか、それよりも一回りほど小さな、独立した個体としてのスライム。 独立した個体である証に、『盛り上がり』には見られなかったスライムにおける中枢機関‐核が内部に形成されている。 「……ッ、止めろ、止めろォッ、止めてくれ……」 実践経験豊富な戦士であるはずの青年から、懇願の声が漏れる。 父譲りの強靭な肉体を持つ、南方蛮族屈指の戦士である青年の口から。 じゅぶっ……ずずっ、ずゅぷっ、ずぶぶっ…… 湿った音がした。 スライムは自身の体を持ち上げると、体表に生み出した裂け目に、青年の剛直を招き入れ始めた。 「あッ、あッ、アッ、アッ、アアァッ!」 悲鳴に近い、上擦った喘ぎ。 思わず達してしまいそうになるのを、青年はギリギリのところで踏み止まる。 その裂け目は、スライムが自らの内に造り出した青年専用の構造だった。 粘液による弱い接合で閉じられていた裂け目は、膨張し硬度を増した亀頭により抉じ開けられ、スライムが青年の上に沈み込んでいく従って彼自身を呑み込んでいく。 じゅぷじゅぷじゅぷじゅぷっ! 青年とスライムの結合部から、粘液と共に漏れ出る淫猥な音。 表層を突き破る音と、内部を抉じ開け更に奥へと進んでいく音。それこそが、この音の正体だった。 抉じ開けられた裂け目の内部には、下から上へと向かうネジ穴のような螺旋状の細かい溝が隙間無く敷かれていた。 溝と溝を隔てているのは、適度な弾力を持った壁。 目に見えない大きさの微小な粒子を内包したそれは、剛直に反発し、押し返し、引き入れながら、充血し感度を増した感覚点を的確に刺激していく。 「うぐぐッッ! 止めろ……ぉ、止めて、くれぇ……」 男根を根元まで包み込んでいるスライム。 腹の奥で渦巻く衝動を解放させまいと必死で堪えながら、絞り出すように声を上げる。 無論、青年の願いを聞き入れるような相手ではない。 スライムは男根を咥え込みながら、微かに体を揺らす。 「ふううゥゥゥッ!!!」 耐え切れず、青年は快感を声に表してしまった。 青年と完全に密着したスライムの内部が、熱を纏った陰茎に押し付けられる。 明らかに人間の女とは違う、しかし人間の女との行為以上の快感。 更に裂け目の周囲の組織には、押し広げられたその部位を元の形状に戻そうとする力が働く。 弱すぎず、しかし窮屈過ぎない極上の締め付け。 内部に敷かれた螺旋構造が引き抜かれることを拒むように、最高潮の脈動を刻む猛々しい肉槍を包み込み、絞り上げる。 「あああッッ! んおっ、ンおおおおッ!!」 肉体が待ち焦がれていた、しかし意思では拒絶していたはずの快楽。 両手では足りぬ程度には経験豊富な彼でさえ、今まで知り得なかった快感。 「がああッ! ひッ、嫌、だッ、んがあッ、あ、イ、あ、ッが、はあッ、ああああンッッ!!!」 未だ頭の片隅に残っていた理性が拒絶の言葉を発させるも、次々と送り込まれてくる快楽が、それを呆気なく手放させた。 スライムは自らの内に取り込んだ肉根に愛撫と接吻と手淫と口淫を施すかのように、不規則なリズムで上下運動を幾度も繰り返す。 湿った熱を持つ、意識を深く冒す快楽。 明確な温度を持った苦痛すら感じるほどのそれは、青年の脳髄を焼き焦がし、それでもなお余りある熱量が性欲に無差別に火を付けていく。 「んおおッ! ンおほォ! おほッ、おほォォォッッ!!」 ぢゅぷっ、ぢゅぷぷっ、ずぶゅっ、ぶちゅっ、ずぶちゅっ 最早、青年の頭の中の理性と意識は、欠片も残さないほどに吹き飛ばされていた。 したい。気持ちの良いことをしたい。玉の中に溜まっているもの全部出して、気持ち良くなりたい。 その思考が、彼の頭の中を完全に支配していた。 青年の下腹部にへばり付いているスライム。 青年は『層』に固定されている身体を揺らし、狂ったように腰を突き上げる。 その度にスライム内部の組織が雁首によって掻き出され、結合部から漏れ出ていく。 粘り気を帯びた液体が滴り落ち、局地的に濃く生えた焦げ茶色の陰毛を、パンパンに張った双玉を、露わになっている会陰部を、ひくひくと動いている尻の肉を濡らしていく。 「あァッ! アアァッ! あへひッ、あび、んびィッッ!!」 体内を駆け巡る快楽が、青年の生殖領域の門を全開にさせる。 びゅるびゅるびゅぼぼっ! 剛直の活火山が、黄色みを帯びた白い遺伝子の溶岩を勢いよく噴出させていく。 十五日ほど抜いていなかったせいか溜まりに溜まっていたのだろう、大量の射精。 涙と涎と洟を垂れ流しつつ、青年は悦楽の咆哮を上げた。 腰が動くごとに肉槍から背骨を通り、脊髄から脳内へと流れ込んでくる電撃のような快感。 津波のような激しい衝撃に、彼の意識は確かに彼方へと飛ばされたはずだった。しかし矢継ぎ早に供給され続ける快感が、意識を再び肉体に引きずり戻す。 「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ、ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ッッ!!!!」 涎と共に吐き出される濁った喘ぎ。 それは正しく、息も絶え絶えの、しかしそれでも快楽を貪り食うことを止められない、発情した大型の肉食獣。 ……どぅぷぷっんっ…… 最後の一滴、最後の一粒までも吐き出し尽くし、青年は動きを止めた。 大量の汗で濡れた短髪と、汗と粘液で濡れている浅黒く逞しい肉体。 スライムも動きを止め、自らの内から力を失った青年自身を引き抜いていく。 「んッ……! ふ、ぁ…………」 拷問に近い快楽から解放され、青年は呆けたように顔を横に向ける。 涙と涎と洟に塗れた、彫りの深めな顔。彼の視界は、まだ涙でぼやけている。 「ぁ…、はッ…………はァッ…………はぁっ……」 大きく胸板を上下させながら、青年は何とか息を吐き出す。 快楽の余韻の残る肉体。遅くなっていない心臓の鼓動が、それを如実に物語る。 「……ッ、くゥ……!」 意識が徐々に閉じようとしたものの、青年を襲う鈍く重い頭痛。 強烈過ぎる快楽に晒された頭の芯が、熱を持ちながら疼く。 先ほど味わった快楽を再び味わいたいのか、それとも拒否したいのか。 青年はそれすらも考えることが出来ないくらいに真っ白になった頭で、ただ真横を見ていた。 『層』の上に横たわり、一糸纏わぬ逞し過ぎる巨躯を曝け出したまま、大の字で寝息を立てている南方蛮族最強の戦士‐父の姿を。 ◆◆◆ ぬにゅっ……っぽ…… スライムは自分の中から、すっかり熱と勢いを失ってしまった肉根を引き抜いていく。 尿道内部に残された精の残滓を吐き出しながら、小さく震える青年自身。 スライムによる拘束と快楽から解き放たれた男根は、力尽きたかのように、くたりとへたり込んだ。 下を向いた鈴口からは、ねっとりとした露が垂れ落ちている。 裂け目を完全に閉じたスライム。 人間の赤子と同じか一回りほど小さなそれの内部では、薄く黄色みを帯びた大量の白濁が漂っている。 濃厚な、濃厚過ぎる精髄。 人間という、地上を闊歩し占有しつつある生物の設計図が詰まった『それ』。 進化と繁栄を求めるものにとっては、余りにも魅力的な宝の山である『それ』。 「ぁ…、はッ…………はァッ…………はぁっ……」 スライムが造精器官から宝の山を発掘していた『相手』は、大きく胸板を上下させながら、荒い息を吐き出す。 射精と絶頂を経た後の、極度の鎮静と脱力感。 今の青年は、何かを行うような気力すらも枯れ果てている。 青年の下腹部にへばり付いていたスライムは鼠径部から太腿を滑り落ち、再び青年の両足の間へと舞い戻った。 再び『層』に接続し、自らの体を固定するスライム。 それは、次の段階に至るための準備だった。 スライムは小刻みに体を震わせ始める。 振動と連動して、スライム内部を満たしている透明な液状組織も揺らぎ始めた。 核を中心に、小さな泡が渦巻いていくのが見える。 スライムの中に漂っている大量の濃厚な白濁が、徐々にその輪郭をぼやけさせていく。 振動という刺激を与えられ、白濁を構成する寒天状の分泌液と粘性の高い分泌液が、スライム内部に拡散し始めているのだ。 半固体状だった精髄が雲のように溶け始め、全体に靄のように広がっていく。 薄い白濁が内部を満たしきり、スライムは動きを止めた。 その瞬間、薄い白濁は一気に核へと吸い込まれ、次の瞬間には、スライムは元の透明な体に戻っていた。 その行動には、二つの意味があった。 一つは『食事』。精液に練り込まれた特濃の生命力を核内に取り込むことによって、食欲を満たすという行為。 もう一つは『生殖』。精液、精子に内包された遺伝子を核内に取り込み、自らの生殖細胞と合体させる行為。 普通の生物ならば、種の違うもの同士では子孫を残すことは出来ない。 しかしスライムという生物には、その自然界の摂理は当てはまらなかった。 弱い生物であるスライムが生き残ってこれた理由。それは、分裂による増殖が可能であるということと、異なる生物の遺伝子を生殖に利用できるという、生殖能力の高さと柔軟性故である。 だが、スライムの生殖能力を以てしても、人間を含む哺乳動物のような高等な生物の遺伝子を利用するのは不可能だった。 そう、『通常』ならば。 激烈な突然変異を起こし、高等な生物との生殖が可能になってしまったスライムと、それに捕らえられ支配されている強き人間。 二十年もの間、異種間の交配が続けられ、人間との生殖が可能という形質を親スライムから受け継いだ唯一の奇跡的な存在。それが、このスライムだった。 そして、このスライムの『父』は青年の『父』でもあった。 ……どくっ……どくっ……どくっ……どくっ…… スライムは一定の間隔で、脈打つように体を震わせ始める。 受精が始まったのだ。 核内に取り込まれた青年の精子は丹念に選別され、最も優れたものだけが『核の幼生』と合体することが出来る。 核中心で生み出された『核の幼生』。 まだ生命ですらないそれは、選別された一匹の精子を内部へと取り込んだ。 取り込まれた精子は跡形も無く溶け出し、内包した設計図を『核の幼生』の内部にばら撒いた。 刹那、透明だった『核の幼生』は、螺旋状の赤黒い糸のようなものに満たされる。 スライム内部におけるただの細胞の一つに過ぎなかったそれが、独立した生命となった瞬間だった。 人間の遺伝子を半分組み込まれたスライムが、人間と生した『子供』。 体を構成する遺伝子の四分の三が人間のものである『スライム』。 この世界に未だかつて存在したことのない新種の生命の誕生に歓喜するが如く、スライムは体を震わせる。 スライムの核内からゆっくりと分離していく、新たな生命体の核。 一つの生命になれたとは言え、生物としてはまだ未熟な状態にある『それ』。 『それ』が単独の生物として活動出来るようになるには、一定の環境下で、ある程度の状態にまで成長することが必要だった。 人間の体温とほぼ同じ温度が保たれ、栄養分が供給されるという環境。 ヒトの遺伝子を色濃く受け継いでいるせいだろう、胎児が子宮で発育していくのと似た環境が、この生物には必要なのだ。 「……っ、ふっ、あッ……?……」 呆けたように父である男を見つめていた青年は、思わず間の抜けた声を上げてしまう。 脱力し切った身体に、不意に与えられた感覚。 『層』に半分沈み込み、自由を奪われている逞しい肉体。 筋肉の塊のような引き締まった尻を、『層』が左右に広げていく。 体を接続しているためか、スライムはある程度『層』を自由に動かせるようだ。 広げられ、露わになった青年の秘部。暗紅色をした肉の蕾はひくひくと動きながら、青年の脱力を反映して緩く閉じられている。 内臓へと続く、出口。 スライムは体表から触手を出現させると、先端を青年の出口に押し当てた。 「……ひッ、ァァ……」 青年の口から漏れ出る小さな悲鳴。 排泄のときでも気にすらしない場所を、自分ではないものに触れられている。そのことが、青年の意識を其処へと片寄らせる。 スライムは先端から粘液を分泌しながら、閉じられている蕾を解すように圧迫し始めた。 一定の間隔で圧迫に強弱を付けながら、皺の隙間一つ一つにまで染み込むように、丹念に粘液を塗り込んでいく。 「……ッあ、んんッ、ふゥ、ゥ、ンッ、や、止めっ、んッ、ァ……」 脱力し切っている青年にとっては、抵抗することすらも一大作業らしい。 弱々しい拒絶も、熱を帯びた吐息の前では説得力は皆無だ。青年の身体は明らかに、与えられる感覚を快楽に属するものであると認識している。 それが証拠に、青年の出口は少しずつ綻び始めている。 閉じられていた其処が緩く僅かに開いた瞬間、スライムは一気に触手を挿入した。 「んああああッッ!! 止めッ、止めッッ! ああッ! 嫌だッ、ァ、ああああッッッ!!」 腹の奥底を駆け巡る違和感と不快感。 青年は絶叫し、動かぬ身体を拒むように攀じる。 腹の中を何かが逆行してくるような感覚。 青年が拒絶の言葉を発するよりも早く、触手が大腸の入り口まで到達した。 「ぅ、ッぐ、んんッ……、こんなァ、こんな事がァ……」 膨満感と異物感と圧迫感。 明らかに不自然な腹の重さに、青年は思わず顔を歪める。 触手に出口から奥まで入り込まれたにも関わらず、不思議と痛みは無かった。触手が柔らかいせいもあるのかも知れない。 「……はぁっ……、……はぁっ……、……ッぎィッ!」 二度ほど、青年が苦し気に息を吐いたときだった。 スライムが突然、内部に挿し込んだ触手を細かく震わせ始めた。 「んぎぎッ! ンンンッ、あああッッ、んぎぎぎッ、んんいィィッ!!」 普通ならば決して味わうことすらない、大腸内を満たしている触手の振動。 それは、大腸にとっては激烈な刺激となったのだろう。刺激が起点となり、激しい蠕動運動が発生する。 蠕動は強烈な便意となって、彼の腹部を苛んでいく。 中に入ってくるものを拒むように、引き締められつつあった括約筋が開き、腸内を占めているものを押し出そうとする。 だが、触手は錨を打ち込んだかの如く動かない。 おむつを濡らした赤子が泣くように、青年は絞り出すような唸り声を上げた。 しかしその声には、本人すら気付かぬほどに僅かな快楽の色が見え隠れしている。 「んひィッ、んひィッ、んひィィッ!」 目に涙すら溜めながら、青年は悲鳴に近い喘ぎを漏らした。 排出することすら出来ない触手の代わりに、腸内の排泄物が出口へと押し出されていく。 青年の下腹部が、ぐるぐるという音を立てる。 「んんんんんぅぅぅッッ!!」 結腸を越え、排泄物が直腸に差し掛かろうとした瞬間、触手が局地的に膨れ上がる。 寸前で排泄物を堰き止めた触手は、それを内部へと取り込んだ。 取り込まれた排泄物は触手内部を通り、スライム本体へと運ばれていく。 人間にとっては栄養を吸収し終えた老廃物であっても、スライムにとっては貴重な餌なのだ。 「んんぅ……、んんん……ッ、クソが……クソが……ァ……」 羞恥と屈辱に顔を赤らめさせながら、青年は呻く。 便意は無くなったものの、腹の奥を占めている不快感は無くならない。 排泄物がすっかり取り除かれた大腸内。スライムは少しずつ、触手の直径を太くしていく。 「んあっ、んあっ、あッ、んんッ、ィ、や、止め、てくれ……」 自分の腹の奥で、何かが大きくなっていく。 明確に分かるその感覚に、恐怖すら抱き始める青年。 触手は体積を増していき、腸壁の襞の一つ一つにまで表面を密着させていく。 まるで型取りしたように、触手の形状が大腸のそれと同じになる。 内部を隙間無く満たし尽くした触手は、不快感と同時に奇妙な感覚をも青年に与え始めていた。 腰の奥がむず痒いような、陰茎の根元の奥が疼くような、奇妙な感覚。 感じたことがないそれに、青年は苦し気な表情を浮かべつつも戸惑いを隠せない。 青年の微妙な変化を、スライムも感じ取ったのだろうか。今度は触手の中に組織の密度の高い部分を作り出すと、触手表面へと浮き立たせた。 柔らかいが確かな感触のある『しこり』。それを、腸壁をなぞるように移動させていく。 「ひィううッッ!?」 内側から触れられ、青年の身体が思わず跳ね上がる。 そうしている間にも。大腸内を移動していく『しこり』。 「んおお、お、お、おおゥッ、止めて、止めて、くれッ、頼むッ、止めでッ! ああひぁッ!」 痛みは感じないが、気持ちが良い訳でもない。不快ではないが、もっとして欲しい訳でもない。 そんな微妙な感触が、ある一点を通過した瞬間だけ、強烈な刺激となって青年を揺さぶる。 悲鳴とも嬌声ともつかぬ声。 強いて言うならば、性に目覚めた少年が初めて亀頭に触れたときの感覚に近いだろう。 スライムは一瞬動きを止め、青年が過敏に反応した一点だけを執拗に刺激し始めた。 「んひッ、ィィ、あひッ! 止めて、止めてくれェッ! 頼む止めでッッ!! んおッ! ンおうぅッ! んへひィッッ!」 誰にも触れられたことのない場所を攻められ続け、ついには青年の目から涙が溢れ出す。 強烈な刺激が、まだ鈍痛の残る頭の芯を揺り動かし続ける。 スライムは更に複数の『しこり』を作り出すと、今度は腸壁を押し広げていくように、ある程度の強さを持った圧迫を移動させていく。 「あッ、あがっ、がああッ!! 止めでッ、止めでぐれぇッ! ンンおッ、おごぉッ!!」 感じる場所を刺激され続けている影響が、大腸全体に広がりつつあるのだろう。 青年は濁った喘ぎを上げながら、腰を揺らし始める。 彼の肉体は、触手から与えられる感覚を明らかに快感と認識していた。 溜まっていたものを出し尽くし、すっかり力を失っていたはずの彼自身は、思い切り勃ち上がっていた。 「んおッ! んおおッ!! んぃいッ、んいッ、ンイィ、んびィ!! いくッ、いぐッ、イグッ、イグぅぅぅッッ!」 青年は無意識の内に『その言葉』を発していた。 自慰で得られる快楽とも、女を抱いて得られる快楽とも違う、未知の快楽。 掘り当てられ、開拓された、己の奥にある感じる場所。触れられれば触れられるほどに、感度を増していくその場所。 更には腸壁越しに前立腺を刺激され、腹の中が快感で満たされていく。 吐き出すものも枯れ果てた剛直は、それでも体内から絞り出すように、鈴口を何度も閉じては開く。 「ああああああッッッ……イ、イ、ィン…………?」 頭の中で風船が膨らんでいくように、意識と思考が圧迫されていく。 それが破裂し達しようとした寸前、またしても快楽の供給が停止された。 青年は思わず、戸惑いの声を発する。 最高潮に燃え上がり続けている肉体は絶頂に達することを求め、彼の性欲を焦げ付かせていく。 「あああ……イギ、たい、イギだい、のにィ……ッ……ああ、こんな……んいっ、ひっ、嫌、だァ、イギだぐ、なッ……はァ!」 理性と本能のせめぎ合い。 青年の内では達したいという衝動と、犯されて達したくないという矜持が鍔迫り合いを繰り広げている。 そんな葛藤を見透かしているように、触手は再び動き始めた。 ゆっくりと、少しずつ。今度は、青年の中から出ていこうとする触手。 「あッ、ああッ、ンンッ、ンンンぅぅ!!」 名残惜しそうな色を声に含みながら、青年は喘ぐ。 彼の肉体は快楽の主を逃すまいと、括約筋を収縮させようとする。 しかし弛み切っている其処には、粘液を帯びている触手を捕まえておくことなど不可能だった。 ずゅ、ずゅっ、ずゅるっ……にゅぽっ…… 青年の体内から引き抜かれた触手は、スライムの中へと戻っていく。 青年の『出口』は大きく口を開きつつ縁をひくつかせながら、触手が分泌していた粘液を垂れ流している。 「はあぁ、はあぁ、はあァ、はアァ……」 上気している顔を涙と涎塗れにさせている青年。 触手は既に引き抜かれているにも関わらず、彼は変わらず、腹の中に奇妙な存在感を感じていた。 ……どうっ……どっ、どっ…… 微かに脈打つ、青年の腹の中の存在。 それは、スライムが青年の精子を使い生み出した『存在』。 触手を引き抜いていくと同時に、スライム本体から送り出され、先端部から吐き出されていたのだ。 四分の三が人間であるがために、生育には特定の環境が必要な『それ』。 人間の体温と同程度の温度が保たれているという条件は、これで満たすことが出来た。 もう一つの条件。それは、『栄養』。 ずっ、ずずずっ、ずっ、ずにゅっ、にゅ、にゅ…… 一仕事を終えたスライムは、ゆっくりと『層』の中へと沈み込んでいく。 再び子を生せる状態になるまでの休眠。 「はあっ、はあっ、はあぁ……」 青年は苦し気に息を吐く。 未だに肉体の奥底で燻り続けている衝動は、彼が素直に眠りに落ちることを許さなかった。 腹が、胸板が上下する度、勃起した青年自身が疼く。 己の手で慰めようにも、『層』に固定された身体は、揺らすことは出来ても動かすことは叶わない。 「はあっ、……はあっ、はあっ……、うぐっ、クソ、が、クソが、クソが……ぐううッ……」 半ば縋るように、青年は寝息を立てている男に視線を向けた。 「……くっ、親、父ィ……」 身も心もスライムに囚われている『囚人』に。 ◆◆◆ 『層』へと潜り込んだスライムは、休眠状態に入る直前、ある信号を親スライムへと送った。 その信号を受け取った親スライムは、自分の支配下にある睡眠状態の男の意識と記憶を丹念に確認していく。 全ては『新しい生命』のために。 「……ぉッ……んおッ、おッ、ぉッ、ぉぉッ、んおぉッ……」 スライムが伸ばした見えない触手を通じて記憶を確認していく度に、男の巨躯が痙攣したようにびくびくと動く。 感情の全くこもっていない無機的な喘ぎが、男の口から断続的に発せられる。 「あぁ……! 親……父ィ……!」 苦し気に顔を歪めながらも、青年は男‐父の異変に悲痛な呟きを漏らす。 手を伸ばせば届きそうな距離だが、『層』に捕らえられている青年の指先は、決して男には届かない。 「あッッ……ァ……ァァ……ッ……ぁ……」 棒読みのような男の喘ぎが、次第に小さくなっていく。スライムが、男の記憶から目当てのものを探し当てたようだ。 増殖するための交わりに用いていたのとはまた異なる、男の生殖行為に関する記憶。 スライムがそこに行き着くまでに、さほどの時間は掛からなかった。驚異的な身体能力、肉体的な『強さ』を備えている代償に、男の精神的な防御力はかなり低いらしい。 「んん……っ……ぁ……っ」 微睡みを含んだ少し掠れた声と共に、男の目がゆっくりと開いていく。と同時に、男の股間で垂れ下がっていた雄の具現が一気にそそり立つ。 その部分にだけ、熱と興奮が最大まで充填されているかのように。 「……んンッ……! ぅ、ふあ、ぁ……」 気怠そうな声を吐き出しながら、男は上半身を起こす。 未だ薄く開かれたままの目で、小さく左右を見回す男。 何かを見つけたのか男は立ち上がると、青年に近付き、彼を真正面から見下ろす形で仁王立ちになる。 「おや、じィ……」 青年の声にも、男の反応はない。 男は焦点の合わない瞳で青年を見つめている。 考えてみれば、青年が『父』の肉体を間近で見るのは、これが初めてに近いだろう。 幼少の頃に目にした『父』の記憶はあるものの、鮮明に覚えているのは顔と声くらいだった。 南方蛮族最強の戦士と呼ばれた『父』。 自分よりも背が高く、厳しい鍛錬を積んできた自分よりも大きな体格。 赤銅色の皮膚を大きく盛り上がらせている、全身鎧の如き筋肉。 丸太のようなという形容が正しくそのまま当てはまる、隆々とした四肢。 鍛え上げられた分厚い胸板と、深く割れた腹筋。 両足の間から見えるスライムから伸びた触手は、まるで臍の緒のように尻へと続いている。 下腹部から正中に沿って生え、次第に濃くなっている焦茶色の陰毛の密林。 勃起した男根は優に臍上にまで届き、その太さは肉の柱と形容するに相応しい。 そして肉柱の根元に座する鶏卵大の双玉は、勃起の極みにある陰茎によって引き上げられているにも関わらず、存在感を誇示するように重力に従い垂れ下がっていた。 男性ですら惚れ惚れとするような、戦士として完璧なまでに完成された肉体。 青年の内に、同性相手では感じたことがないような感情のざわめきが生じる。 「………………お前が……」 ようやく、男が口を開いた。 今までの間は、何かを脳内に読み込んでいた隙間だったのだろうか。 「親父……!」 腹を襲う膨満感に苦しそうな表情を浮かべながらも、微かな希望を抱く青年。 だが、それも次の瞬間には打ち砕かれた。 「お前が、今回の『血分け』の相手か」 虚ろな瞳で、男は青年を見下ろす。 『血分け』。それは南方蛮族独特の風習である。 戦闘力や身体能力、生殖能力などの基準によって選び抜かれた『強き戦士』が、南方蛮族を統べる長の仲介の元、子を生すために他の部族の女と交わる行為。 文字通り、本来ならば交流が薄い他の部族に『血を分ける』儀式。 『強さ』というものを重んじる南方蛮族の諸部族が、その歴史の中で確立してきた風習である。 『血分け』の候補として選ばれた『強き戦士』は南方蛮族内での権力を持つ代わりに、その子種は部族間の共有財産となる。 鍛錬の旅から所属する部族の集落に戻った折には、『血分け』の役目を果たす義務があるのだ。 無論、それは特定の配偶者を得たとしても変わらない。 青年も候補として選ばれ、『血分け』も経験済みである。 だが、かつては最強と謳われたこの男ならば、生殖能力の高さも相まってさぞ引く手数多だったことだろう。 「ッッ!!」 青年は男の言葉に衝撃を受けた。 目の前にいるのにも関わらず、明らかに自分ではない者の姿をその瞳に映している父。 「確かに俺は好色だが、今は妻も子ある身だ。俺自身の性欲と義務のためだけにお前を抱く」 肉体に表れている興奮とは裏腹の、淡々とした口調。 言葉から察するに、これは青年が生まれた後に行われた『血分け』なのだろう。少なくとも青年は、そのような事情をこのような状況で知りたくはなかった。 「喜べ。お前には、その腹に俺の子種を受ける資格がある。諸部族の戦士筆頭の、この俺のなァ」 言葉と共に男の顔に浮かぶ、悪辣な笑み。 篭手のように大きな左手が。股間に垂れ下がっている双玉を幾度か撫でる。 ごろんごろんという音が聞こえてきそうな存在感。 内部で溜まりに溜まっている状態であろうことが、容易に想像可能なほどの重量感。 男の生殖本能の強さを具現化した一対の器官は太い指から零れ落ち、股の内側にまで張り出した太腿の筋肉を叩く。 「始めるぞ。準備は……良いようだな。子宝の薬湯でも飲んだか……かなり緩んでいるじゃないか」 男は屈み、『層』によって大きく開かれた青年の股間を凝視する。 男の目に青年以外のものが映し出されているのは、明らかだった。 「……んッッ、ああっ……!」 不意の感覚に、青年は声を上げる。 青年の弛み切った出口に、男が指を挿入したのだ。 弛緩し押し広げられた出口は、三本の太い指を拒むように収縮しようとするものの、ただ括約筋がひくひくと動くのみだった。 「お前の此処は、もうこんなに濡れているぞ。俺の子種が欲しくて仕方がないようだな……淫乱め」 僅かに紅潮している顔を青年に向けながら、男は厭らしい表情を浮かべつつ言う。 歯を剥き出しにした、獲物を品定めするような表情。やや吊り上がった口の両端が、男の顔に下衆な笑みを作り出している。 青年の中から引き抜かれた男の指に、触手の粘液の残滓が纏わり付く。 「……ひうぅッ!」 指の感覚から解放されたのも束の間、完全に開いている青年の出口に、滾るような熱を帯びた『何か』が押し当てられた。 男は青年の上に覆い被さり、青年の両脇に腕を差し込む。 男の両腕は『層』の中へと沈み、何の障害物も存在しなかの如く、青年の身体を抱き締めた。 二人の蛮族戦士の肉体が密着し、互いの厚い胸板が体重と反発でひしゃげる。 「っ……親父っ、止めてくれ……!」 青年は懇願するように言うも、それが男に届いた様子はない。 眼前にある父の顔。 青年は男と目が合うが、男の瞳に意思の光は全く感じられなかった。 男の瞳に宿っているのは、爛々とした狂気と興奮の輝き。 「……さあ、俺の体を楽しませろ。俺の子種をお前の腹で飲み干せ。そして俺の子を孕め……ッ!!」 男はゆっくりと腰を進めていく。 「っっ!! ぐうぅぅっ!!」 青年は顔を歪め、思わず身を固くする。 熱と質量を持った脈動が、自分の内部を更に押し広げながら奥へと進んでくる感覚。 痛みを感じなかったのは、スライムの触手によって存分に慣らされていたからだろう。 「ぐッ……ぐっ、おおッ……くう、うっ、良いぞ……!」 抑えきれない恍惚を顔と声に表しながら、男は身震いしつつ首を上げる。 青年の顔に降りかかる、男の熱い息遣い。 快感に起因するゾクゾクとした衝動が腰の奥から背骨を駆け抜け、知らずに男の尻を揺れさせる。 「ぎおおッッ!!」 青年の口から上がる悲鳴。 ぐにゅりという音が、腹の底からした気がした。 張り出した男の雁首が、青年の前立腺を腸壁越しに蹂躙したのだ。 鎮まりかけていた青年自身が反射的に勃起し、透明な粘液を吐き出させる。 「ああッ、ああッ、あッ、ああッ! 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だァ、止めてっ、止めて親父ィ!!」 上擦った喘ぎと裏返った声。青年の中から余裕が無くなっていく。 青年は恐怖を覚えていた。 次から次へと与えられ、開拓されていく新たな快楽。 腹の中のみならず、頭の中まで作り変えられていくような感覚を拒むように、そして自分の中で芽生えかけている感情を打ち消すように、青年は男に懇願する。 勿論、男に青年の声は届いていない。男の意識と思考は、スライムの支配下にあるのだから。 「っ、くおぉっ、んくッ、ふ、ふぅゥ! 良いぞ、良いぞッ、良いぞ……ッ!」 熱を帯び始める男の声。 肉根の三分の二が挿入された時点で、青年の直腸は隙間無く男の熱で埋め尽くされていた。 「いぎッ! ぎ、ぎああ! あああッ! 止めッ、止めでッ、ンぎっ、んぎいィィ!!」 意識せぬ内に、青年の瞳は涙で満たされていく。 自分の身体を揺さぶっている感覚が痛みに類するものなのか快感に類するものなのか、最早それすらも判らなくなっていた。 「はああッ、もっと、もっとだ……もっと俺を満足させろォ……!!」 腰を小さく前後に動かしながら、青年の内部を味わう男。 熱の塊が往復する度に前立腺が抉られ、青年の腹が揺れる。 その衝撃に反応したのは、青年の大腸内に産み落とされていた『存在』だった。 結腸から奥を満たしていた『それ』は、振動に誘われるがままに、糸のような触手を直腸へと伸ばす。 『それ』の触手に触れたのは、一定の間隔で往復運動を繰り返している、夥しい生命力を内包した脈動する肉。 『それ』は歓喜した。何故ならば、その肉が成長に必要な栄養をもたらすものであることを、本能的に知っていたからだ。 「んおおッ! んおおッ! んぐおおッ!!」 熱狂に揺り動かされるがままに、男は腰を動かす。 青年の悲鳴は、男の悦楽の声に完全に掻き消されていた。 男の腰遣いが徐々に激しくなっていく。その時だった。 「いいイイィィッッ!?」 青年が発したのは、痛みと快感と戸惑いがない交ぜになった絶叫。 男の亀頭が直腸を越えて結腸内部にまで達し、がっちりと嵌まり込んだ。 肛門に触れる、硬く波打った陰毛の感触。 触手によって開拓された場所に、暴君と化した雄の具現が押し付けられる。 青年の腰から頭の芯を貫いていく、強烈な感覚。 熟練の魔導士が放つ雷撃の魔法にも似たそれは、青年が封じ込めようとしていた感情を無理矢理に抉じ開けていく。 幼少の頃に抱いていた、戦士としての父への憧れ。それが快感によって性欲と結び付けられ混ぜ合わされた挙句に生じた感情。 この男‐父に抱かれて達したいという劣情。 男は更に腰の動きを大きくさせながら、青年の腹を掻き混ぜ、揺らす。 青年の中に陣取っている『存在』に、激しく脈打つ剛直が触れる。 快楽を食むように開閉を繰り返しながら、熱い涎を垂れ流している鈴口。 『それ』は接吻し愛し合うかの如く、自らの一部を鈴口に浅く捻じ込んだ。 栄養を得るための行動なのだろう、餌を目前にし興奮の只中にある『それ』は、男の体内から溢れ出る粘液を自らの内に取り込みながら、その不定形の体の表面からある物質を分泌する。 弛緩した筋肉や細胞を、収縮させる働きを持つ物質を。 「!!! があああああああああああああッッ!!!!」 空間全体を揺るがす男の咆哮。 分泌された物質は大腸に吸収され、早速効果を現した。 根元まで完全に挿入されている肉柱を、青年の内部は食い千切らんばかりに締め付ける。 収縮に抵抗するように、脈動を強くする剛直。 経験豊富な男が未だかつて経験したことのない、強烈過ぎる刺激。 痛みすら伴うほどに激烈な肉の味は、男の中で快楽へと変換され、腰の奥から脊柱を駆け登っていく。 二十年ぶりに味わう『人間相手』の快感は、スライムに支配されている意識の階層を貫通し、男の頭の芯を直撃した。 「ああッ! あああああ! がああああああッッ!! あッ……!?」 本能が欲するがままに男の腰が動き、その巨躯に快楽が供給されていく。 だがそれも束の間。不意に男の動きが停止した。 大きく見開かれた男の目。そこには確かに意思の光が宿り、視界に青年の像を結んでいた。 脳が灼けるような快感によって激しく揺さぶられたことにより、スライムによる意識の支配から脱することが出来たのだ。だが。 「ああひィィィィッッ!! …………ぁ……ァ……」 次の瞬間には、男の瞳から意思の光が再び消え失せていた。 支配の主による、強制的な意識の遮断。 「ッ……あっ……親父ィ……!!」 息も絶え絶えに、青年は言葉を吐き出す。 じゅくじゅくとした熱を持った腹の中が、最高潮に達している男の性欲の具現を受け止め続けている。 「あ……ァ……わから、ない……」 大きく目を見開き、恍惚とした表情を貼り付けたまま、男は呟く。 口の端から垂れる唾液が、青年の顔に落ちる。 「ああっ、ワから、あっ、あ……わか、ラ、なイ……」 俄かに取り戻し、状況を理解しようとしている男の自我と、支配の主導権を再び握ろうとするスライムとのせめぎ合い。 「ぅぅ、親父ィ、しっかり、してくれよ……親父ィ……ッ」 腹を満たしている熱に意識を冒されそうになるも、青年は何とか言葉を紡ぎ出す。 この男が、父が、我に返ることを信じて。 「わかッ、ラ、なイッ、ワ、から、ナッ、イ、ワカらっ、ナい、わかラな、イッ、わカら、なッ……あ」 言葉が途切れた瞬間、男の黒目がぎょろりと上に動き白目を剥かせる。 それは、男の意識が再度スライムの支配下に置かれてしまったことを意味していた。 「……ぁ……ぁぁ……消える……きえる……ッ」 微動だにしないまま、男は無機的に呟く。 肉体の興奮とは完全に裏腹な言葉の響きは、意識だけが隔離されているかのようだ。 「消える、っ、きえ、るっ、きえッ、キエ……ッ、き、える、ぎえる、ぎえでッ、ぎえりゅゥゥゥッッ!!」 男の両目から、一筋の涙が流れ落ちていく。 「っ、お、やじ……ィ!!」 涙で滲んだ視界に映る父の異変に、青年は悲痛な声を上げる。 断末魔のような濁った叫びを放ったきり、男は死んだように硬直したままだった。 青年の中で勢いを保ち続けている剛直だけが、男が生命活動を続けているという証拠だった。 「………………ぁ……」 時間にすれば五分にも満たない沈黙だったが、青年には無限の長さに感じられた。 命の息吹を示すように、男の口から小さな声が漏れる。 「親父……!」 湿った熱を含んだ短い息を何度も吐き出しながら、青年は縋るように父に声を掛ける。 「ぁァ、ぁ、ソウだ、そウダった、おマ、エが、オれの、ツま、オれノ、イとシイ、オんナ……」 黒目が下がり、青年は男と視線が合った。 男の虚ろな瞳の奥に広がっているのは、底無しの闇。 青年は思わず戦慄した。 「オれの、おンナ、つま、おれのおんな、おれの妻、お前が、俺の、妻」 言葉が徐々に明瞭になるにつれて、男の瞳の焦点が合い始める。 青年の顔を視界に捉えた状態で、男は彼を『妻』であると認識しているのだ。 それは、男を支配しているスライムの奸計によるものだった。 瞬きするほどのほんの僅かな間、スライムの支配から逃れることが出来た男の、網膜に焼き付いた青年の姿。 すぐにスライムは、以前より強固に精神の触手を張り巡らせて、男の意識を再び支配した。 だが、男の肉体のささやかな抵抗なのか、思考に焼き付いた青年の姿を削除することは出来なかった。 スライムは考えた。削除することが出来ないのならば、自分達の更なる繁栄のために活かしてしまえば良いと。 スライムは男の記憶から、彼の最良の生殖相手である妻に関する記憶を全て引っ張り出すと、彼の妻の姿を跡形もなく消し溶かしてしまった。 後に残る空白。そこにスライムは、青年の姿を嵌め込んでいく。 青年が、男にとって最高で最良の『相手』となった瞬間だった。 「あッ! アアッ! アアァ!! 俺の、妻! 俺の愛しい女! お前ッ、おまえぇぇッ!!!」 青年が自分と同じ性別であることに、男は気付いていなかった。もしかすると、それに気付かないように思考を改変されていたのかもしれない。 堰き止められていた肉体の興奮が、男の意識の中に一気に流れ込んでいく。 一瞬にして沸騰寸前の熱狂状態と化した男は、腰を突き上げながら、青年の身体をへし折らんばかりに抱き締めた。 「ぐあああッッ!! んぎぎィッ、親父、止めっ、ぐ、ぎいィ、イギィッ!」 厚みのある鍛えられた肉体であるにも関わらず、青年の中で響く背骨と肋骨が軋む音。 腹の中が突き上げられる度に、青年の下腹部から淫猥かつ嫌な音が響く。 何時の間にか青年の肉体は、男による体内の蹂躙を、痛みではなく快楽であると認識していた。 しかしそれでも、彼の理性が抵抗の言葉を口に出させていた。 「あぁっ、アァッ、アアアァ、ああああッッ!! 作るっ、作るぞッ、俺とお前のッ、子供ォォッッ!!!」 興奮と欲情に塗れた男の言葉。 視覚は確かに青年を捉えているのだが、スライムとの時と同様に、男の脳内では妻との生殖行為の記憶が再生されているらしい。 締め上げられ、喰らい付かれ、搾り上げられている男自身は前に進むことしか出来ず、ただひたすらに突きを繰り返すのみだ。 ぐちゅぐちゅ、ずちゅぶぢゅという湿った音に、骨盤と骨盤がぶつかる鈍い音が混じる。 「あああああああッ!! 止めっ、止めェェッ!! ッごォ、ぅンごッ、おごおッ」 腹を下から上へと貫く衝撃が、青年の肺から空気を強制的に排出させる。 酸欠状態に、朦朧とし始める意識。 絶え間なく送り込まれ続けている快楽が、青年の頭を満たし始めていた。 「ぐおおおッ!! んおっ、んおおッ! んぅ、ァッ、出すッ、出すぞっ! くぅゥ、俺の、俺のォ、子種ェッ! ンンぅッ! 作るっ、ぞ、俺と、ぐゥゥ、お前のォ、子供ォッ!!」 最高潮の興奮と性欲が、男のその言葉を吐き出させる。 言葉と共に二度、男は腰を大きく突き上げ、到達可能な青年の最も深い場所に亀頭を押し付けた。 青年の中に、自らの存在の証を刻み込み、焼き付けるように。 「ああああああああああああああああ!!」 腹を突き破られたのかと思うような、凄まじく重い衝撃。 最も深い場所に打ち込まれた熱が、青年の身体に蓄積された快楽に引火し、快感の火花となって逞しい肉体を駆け巡る。 理性と思考は焼け落ち、脳髄まで達するような二度目の重い衝撃に跡形もなく吹き飛ばされた。 青年の頭の中に残ったのは、性欲と劣情‐父に抱かれて達したいという願望のみ。 「アアア! 親父ッ、親父親父親父親父親父ィィッ!」 『層』は既に、青年の四肢を拘束してはいなかった。 彼の脳内で、爆発的な勢いで大きくなっていく性欲と劣情。 自由を得た手足は、その二つの情欲に突き動かされていく。 男の首に回された両腕と、男の腰に絡みつけられた両足。 青年は性欲の命ずるがままに腰を揺らし、男‐父がかつて母に子種を植え付けた器官を、自らの最奥に押し付けながら味わう。 「ぐおォッ! ッ、くッ、ぐゥ、があああああああああああああああッッ!!」 発情したドラゴンのような咆哮。 男の腰遣いと青年の腰遣い。各々が自分本位に動いたことが、結果的に巨大な快楽のうねりを生み出したのだろう。 男は絶頂に達し、造精器官に蓄えられた特濃の生命の素を、青年の内部へと解き放った。 かつて男が、妻との間に子を生すためにしたように。 攻城弓の如き遺伝子の砲弾は、肉柱が脈打つ度に打ち出され、青年が最も感じる場所に着弾し続ける。 淫らな乾いた音が、青年の下腹部から響く。 「あひィ、ンひッ、イィッ! 親父っ、親父ィ、おやじィ! ほやひィ、もっど、もっどぉぉ!」 己の腹の隙間が満たされていく歓喜。 男が攻め立てるほどに甘く痺れていく、青年の頭の芯。 最早呂律の回らなくなった舌で、男を求める言葉を次々に紡ぎ出しながら、青年は悦びの表情を露わにする。 歓喜の渦の中にいたのは、青年だけではなかった。 青年の大腸内に産み落とされた、彼の子供でもある『存在』。 『それ』が男の鈴口に捩じ込んでいた触手は、射精の勢いによって押し戻された。しかしそれは、待ち望んでいたことでもある。 濃縮された生命力と精子が混ぜ合わされた『栄養』の供給。 『それ』は無我夢中で栄養を体内に取り込んでいく。 尾を激しくくねらせながら消化されていく、数億、十数億の精子。 『本来の用途』に使われたのならば、末は南方蛮族の英雄にでもなるような者が生まれ得たかもしれない、男の分身達。 食欲が刺激されたのだろうか、『それ』は男の亀頭を包み込むように体を密着させると、充血し弾力を持った亀頭を摩擦し圧迫しながら、鈴口を吸い上げる。 「ごおぉぉッ!? んぐおおおおッッ!!」 再生されている記憶には存在しない快感に、男は瞬間的に戸惑いの表情を見せる。だが次の瞬間には、再び生殖本能の権化に戻っていた。 どうやら、男の中で記憶の修正が行われたらしい。 「ああ、あああァ、親父っ、親父ィ、おやじおやじおやじィィィ! んああ、好き、すき、じゅぎィィ」 劣情と快楽に、完全に支配されてしまったのだろう。青年は狂ったように男の熱を求めている。 「すきぃ、しゅきィ、しゅぎひィ……んっ、んぅ、っぶ、ン、ン、んぶ」 首に回した腕を支えに、青年は顔を持ち上げる。 目前にある男の顔。 快感の咆哮と悦楽の喘ぎを吐き出し続けている男の口を、青年は自分の口で塞いだ。 頬に、耳に掛かる、男の鼻息。 青年は男の口腔に舌を挿し込むと、ねっとりとした唾液を纏う男の舌を、舌先でなぞっていく。 「んんッ! ぅぅンンッ、ん……」 積極的な舌の交わりに歓喜の炎が更に大きくなったのか、男の鼻息が大きく強くなる。 「んッ! んんンッ……んぅ、んン、ゥ、ンン……」 ぬちゃぬちゃ、ぴちゃぴちゃという音に混じる、二人の蛮族戦士の吐息。 男は精髄の射出を繰り返しながら、舌と性器から伝わってくる快感を貪り続けている。 相手が他ならぬ『最良の生殖相手』なのだから、このような濃厚な行為は男にとって当然なのだろう。 勿論、『妻』に関する記憶が作り替えられていることも、自分の子種が『栄養』として利用されていることも、男には自覚も知る由もない。 一方の青年は、限界に近付きつつあった。 スライムによる精液の搾取と腹の中の開拓。そして父との交わり。 種類の違う快感を次々に与えられ、青年の脳の処理能力は、既に上限を超えていた。 「んんッ! ンンン! んぶっ、んぶぅ、ンンッ!!」 青年の男根はくたりとしな垂れ、先端から透明な粘液を垂れ流している。 青年の身体を突き動かしているのは、ただ気持ちよくなりたいという、底無し沼のような欲求。 戦士として鍛え上げられてきた肉体は、最早熱と快楽を受け止めるだけの器と化している。 そして、その器も満杯になろうとしていた。 「……んんッ……ゥン……ンンゥ……ん……っ……」 身体を構成する細胞の全てが熱を持ち、焼けて溶けていくような感覚。 青年は己の存在を確かめるように、男の肉体に絡み付けた四肢に力を入れる。だが、力を入れたのかどうかすら、青年には判らなくなっていた。 密着した肌と肌から伝わる互いの体温が混ざり合い、まるで一つの肉塊になったかのような錯覚。 自分を繋ぎ止め、揺り動かしているはずの快楽ですらも、青年の中で徐々に遠くなっていく。 「…………ぅ…………ン……ァ…………んんッ……ン…………」 青年を満たし尽くしている熱と快楽が結び付き、段々と変質していく。 緩やかに青年の頭の中を侵していく白い光。 生暖かい泥に沈んでいくように、青年は意識を失っていった。 未だ止まることを知らない性欲の狂戦士と化している男の、歓喜に満ちた生殖本能の咆哮を聞きながら。 ◆◆◆ 一番近い村から歩いて丸二日程度は掛かる森の奥深く、黒々とした木々が鬱蒼と生い茂る山裾に、かつて『それ』は存在した。 『スライムの洞窟』。 浅い洞窟ではあるものの、内部に大量のスライムが生息していたことから名づけられた洞窟。 だが、今ではその洞窟の姿はない。 地滑りが起きたのか、崖崩れが起きたのか、それは定かではないが、かつて洞窟があったとされる場所は、今では白い石灰質の山肌が露出しているのみだった。 洞窟の周辺に姿を見せていたスライムの群れも、いつしか姿を消していた。 平穏を取り戻したかに見えた森。 しかし、洞窟の姿が確認出来なくなった時期くらいから、奇妙なものを目撃したいう話が、相次ぐようになっていた。 人間のかたちをしたスライム。その目撃談を総合すると、このようなものらしい。 人間と同じように頭、胴体、手足を持ち、二足歩行で移動する。 頭はあるものの顔に該当する部分は無いようで、目や鼻、口は見当たらない。 全身が半透明な体をしており、胴体にはスライムである証の核が存在しているという。 話が広まるにつれ、無責任な噂というものも発生してしまうのが世の常というものである。 曰く、旅の戦士が野宿の最中に我慢出来なくなり、スライムを使って自慰を行った結果生まれた。 曰く、森の中で行き倒れて死んだ人間を食らった結果、突然変異を起こした。 曰く、悪の魔術師が人間とスライムを融合させる実験を行い、生まれた失敗作を森に捨てた、等々。 村に立ち寄った冒険者にそれの討伐を依頼するものの、完了報告から半年もすれば再び目撃されるという周期が繰り返されていた。 しかし以前とは違い、今度は討伐を依頼する相手に事欠くことはなかった。 人間のかたちをしたスライムの噂を聞きつけた腕に覚えのある冒険者達が、周期的に村に集まるようになっていたからだ。 そして今日も、冒険者の一団が森の中へと立ち入っていく。 奇妙な、人間のかたちをしたスライムと戦うことを求めて。 「……あぁっ、はあっ、はあっ、ああ、ぁ……」 熱を帯びた荒い息。それを掻き消すかの如く響く、豪快過ぎるいびきの音。 地下深くに存在する広大な空間。 床から天井まで、全てスライムの『層』に覆われたその場所に居るのは、二人の男と空間の主であるスライムの本体。 一人は、『層』の上で手足を大の字に投げ出しながら眠っている、逞し過ぎる巨躯を持つ男。 かつては南方蛮族最強の男と呼ばれ、自分の背丈よりも大きな戦斧を振るい、幾多の魔物を屠ってきた熟練の戦士。 しかし、今のこの男はスライムの奴隷であり、『層』を構成しているスライム達の父と成り果てていた。 スライム本体から伸び、尻に挿入された触手によって、男の意識は完全かつ完璧に支配されているからだ。 もう一人は、『層』の上に四肢を力無く投げ出している、鍛え上げられた肉体を持つ青年。 青年もまた南方蛮族で屈指の戦士であり、子供の背丈ほどある剣で数々の魔物を打ち倒してきた、歴戦の勇士である。 しかし、歴戦の勇士であるという面影は、現在の青年には見られない。 やや彫りの深い、浅黒い顔に浮かんでいるのは、戸惑いと悦楽と恍惚が混ざったような表情。 精悍だった顔つきは、今や湿った熱に冒されて色を帯びているのみだ。 スライム討伐の依頼を受けなければ、この洞窟に立ち入らなければ、そして最深部にあるこの空間で実の父であるこの男に再会しなければ、青年は戦士としての経験と鍛錬を積み続けていたことだろう。 「……!! んんんッ、んああッッ!!」 不意に青年の身体がぴくりと動き、何かを堪えるように声を上げる。 「んはぁ、んはぁ、んはぁ、んはぁ、んんんぅッ!!」 脱力した肉体を小さく捩りながら青年は涙を浮かべ、悲鳴にも似た喘ぎを吐き出す。 一瞬、青年の尻が浮く。 その瞬間、極度に緩んでいる彼の出口から、半透明な不定形の物体が溢れ出てきた。 『溢れ出る』という表現は、正しくないのかもしれない。 何故ならその物体は、明確な意思を持って、青年の体内から這い出してきたのだから。 「ッ、ぐううぅぅぅッッ!!」 青年は声と共に、下腹部に力を込める。 ぶぢゅぶぢゅぶぢゅぶぢゅっ!! 汚らしい音と共に、半透明の物体が全て、青年の大腸内から排出された。 「……ふへっ、ふへへぇ……おれの、おれのこどもぉ……」 射精時の快感よりも更に深い悦楽の表情を浮かべながら、青年は一人ごちる。 青年の中から出てきた半透明の物体は、青年が特別なスライムとの間に生した『子』だった。 そして、その特別なスライムの父親は、同じ空間で眠りに就いている男‐青年の父である。 青年の中から排出された存在は、『層』の上を這い回りながら、『層』を構成しているスライムを自らの構成要素として吸収していく。 見る間に成長し、大きくなっていく『存在』。 『存在』が完全に成長しきったとき、その姿形はスライムとはおよそかけ離れたものと化していた。 ヒトの、人間のかたち。 「ぁぁぁ、おやじぃ、すき、おれ、おやじと、やるの、おやじと、いっぱい、やるの、すきぃ」 紅潮した顔、恍惚とした表情。そして、一般的な倫理観とは乖離した言葉。 如何に強靭な精神力を持つ人間であろうと、何もかもが狂ったこの空間に耐えられる者など存在しない。 それは、強固で頑健な精神力を持つ青年ですら例外ではなかった。 防衛本能、というものなのだろう。 青年は自我を意識の奥深くにまで沈め、自分自身を守ろうとした。 今、ここに居る青年は、青年ではあるが本来の青年ではない。ただ性欲と本能によって動かされているだけの、抜け殻のようなものなのだ。 「ああぁ……おれもぉ、つくる、おやじ、みだいにぃ、だぐざん、こども、つぐる、おやじ、すき、ああ、ぁ、おやじ、すき、たくさん、いっぱい、こども、こどもぉ……」 自分の相手であるスライムとの行為が待ち切れないとでも言いたげに、青年は腰を小さく上下させる。 勃起した青年の男根は、既に脈打ち始めていた。 青年にとっても、男にとっても、この空間で行うことは、これから先も変わらない。 ただスライムと交わり、スライムとの間に子を生し続けるというだけだ。 老化という時の流れと、死という赦しをスライムによって奪われ、二人の男は生かされ続ける。 父として、奴隷として、保育器として、栄養の供給源として。 外界とは完全に隔絶された柔らかい牢獄の中で。 「あッ、ああああッ! んんんッ! ぐおおおおッ!! お前ッ、おまえぇぇぇぇぇッッ!!」 「んあああッ!! おやじっ、おやじ、おやじぃ、おやじィ、おやじおやじおやじおやじおやじぃぃぃぃぃ!!」 牢獄の主であるスライムが滅びぬ限り、父子仲良く、永久に。 ‐END‐