試合終了後の控え室。 ビニール樹脂製のカーテンで区切られたシャワールームの中に、彼の姿はあった。 彼の名はリップ・セイバー。BWA所属の、いわゆるヒールレスラーである。 「…ッ…く……ぅ…」 スコールのような勢いで降り注いでいる41度のシャワーを、俯かせ気味の頭から浴びながら、リップ・セイバーは小さく呻く。 緩いウェーブを帯びた、海草のような長めの金髪が、首筋と頬に張り付く。 リップ・セイバーという男にとって、敗北は死すら比べ物にならないほどのの恥辱であり、勝利は至上の快楽である。 しかし、今日の試合の相手は、あまりにも呆気なさ過ぎた。 勝利による快楽を得ることが出来ぬほどに。 彼の内で煮え滾っていた戦闘本能を、満たすことすら叶わぬほどに。 今、彼の内を占めているのは、苛立ちと欲求不満。 そしてそれは、彼の肉体に如実に現れていた。 …びぐんッ、びぐんッ、びぐんッ… 199cmの極めて筋肉質な身体。それを鑑みても大きすぎる、彼を生物学上の『オス』たらしめている部分。 リップ・セイバーの肉体のほぼ中心で、これまでにないほどに怒張し、脈動を繰り返している彼自身。 それは、さながら砲台だった。 生体部品で構築され、内部に信じられないほどの熱を有した、極めて有機的な砲台。 直径は52.9mm、砲身の長さは271.8mm。 先端の赤黒みを帯びたピンク色の領域は、砲身よりも一回り大きく膨張しており、その境界である段差が明確に見て取れる。 「ぐうッ…う、ぅ…」 自らの体内を苛む、戦闘本能と欲求不満が転化された熱。 その熱は、彼の生殖本能と性欲を激烈なまでに刺激し続けている。 リップ・セイバーはこらえ切れず、タイル張りの壁に背を預ける。 そしてそのまま、身体を床へと沈みこませていった。 シャワーから降り注ぐ湯の温度を帯びた、コンクリートの露出した床。 筋肉の塊のような尻が、湯の染み込んだ床に密着する。 両膝を立てつつ、127度に開かれた、丸太のような両太股。 砲身の根元に位置している、薄く柔軟な皮膚に包まれた一対の楕円球は、不意に支えを失い鼠径部から下方へと滑り落ちていく。 体格の平均と比較しても明らかに大き過ぎる、縦は47mm、最大横幅は31mmのずんぐりとした楕円形の器官。 『弾薬庫』であり『兵器工場』でもあるそれは、肉体から血液と共に流れ込んでくる熱を喰らいながら、自らを大きく、力強く脈打たせる。 まるで、己こそがリップ・セイバーという存在の『本体』であると主張するかのように。 …ばぐんっ、ばぐんっ、ばぐんっ、ばぐんっ… 砲身内部を構築している海綿状組織への血液充填率が、100%を突破したようだ。 先ほどよりも膨張率と勢いを増加させながら、リップ・セイバーの巨砲は腹筋に対して緩い放物線を描きつつ、その頭頂部を天へと向けている。 最早、それは『生殖器官』という生易しいものではない。『生殖兵器』と言っても過言ではない代物と化していた。 全身が強固な筋肉の装甲に覆われた、重戦車の如き巨躯。 臍の下から腹筋の割れ目に沿って生え、性器付近で局所的に濃く茂った、複雑に絡み合った陰毛の密林。 根元に金色の密林を従えた、厚い胸板に届かんばかりの、完全な臨戦態勢にある肉砲。 それは激しく、力強く脈打ちながら、先端の射出口から透明な粘液を溢れ出させ始めている。 「ぐっ、うぅッ! うおお…ッ」 『衝動』を抑えることなど、今の彼には到底不可能だった。 『オス』としての、『生殖兵器』としての衝動を。 「うぅッ、うゥンッ、んンぅ…」 グローブのような右手が砲身を掴み、親指と人差し指の腹を、張り出した暗いピンク色の段差に擦り付け始める。 他の指は砲身の脈動を阻害するかのように、不規則な圧迫を加えている。 「んッ…! …んぅ…っく……んン…ィ…」 リップ・セイバーの口から、低い、甘さを含んだ喘ぎに似た声が漏れ出る。 右手を動かす度に生まれ、神経を通じ脳髄へと送り込まれていく、火花のような感覚。 火花は脳髄をくすぐり、パチパチと弾けながら快楽を司る領域を甘く焦がしていく。 それこそが、重戦車から固定砲台へと化した彼の『燃料』でもあった。 「くッ…うゥ……、ん、くッ、んン、ゥ、んィ、…は…ァ…」 砲身を包み込んだままの右手を上下に動かしながら、流れ込んでくる感覚を一心に味わい続けているリップ・セイバー。 射出口は完全に開き、だらしなく垂れ落ちていく粘液が指を濡らす。 紅潮した顔には、悦楽の表情と共に鬼神のような壮絶な表情も混じる。 『燃料』は供給され続けているものの、『生殖兵器』としての彼を構成しているプログラムは、それでは不十分と判断したのだろう。 砲身の下にある二つの『弾薬庫』を左手でまとめて掴むと、砲身と同様に刺激をし始めた。 左の掌で受け止め、包み込みながら、乱暴ささえ感じるほどの力で揉みしだく。 二つの『弾薬庫』は限られた空間の中を転がされながら、悲鳴を上げるかのように、本体に感覚を送り込む。 痛みを感じる寸前の、熱を帯びていない快楽。 熱を帯びていないが故に、溶けずに意識の表層を埋め尽くす快楽。 質感の異なる快楽を受け取り、彼の脳髄は完全に『生殖プログラム』に乗っ取られていた。 「ああッ! あンッはァ! んんアッ!! んンアッ!! んんアハぁっ!!」 後頭部をぞりぞりとタイルの壁に擦り付けながら、リップ・セイバーは顔を上向かせながら声を上げる。 最早、勢いの強いシャワーが顔面を直撃していることなど気にも留めていないようだ。 喘ぎと共に熱を帯びた唾液が垂れ、シャワーの湯と混じりながら肉体を滑り落ちていく。 薄く開かれた瞼から覗く氷色の瞳は、虚ろな、しかし危うい光を宿している。 右手が動き、砲身が脈動する度、彼の巨躯が揺れる。 『その時』が、近いのだ。 「…ァ…ッ…」 快楽が臨界点を超えた瞬間、巨躯に相応しい心臓が、一際大きく脈打つ。 熱い血液が全身へと送り込まれ、それは脳髄に溜め込まれた『燃料』へと届く。 引火するには十分すぎる、熱。 「ああ!」 『燃料』への点火が十分な状態であることを察知すると、『生殖プログラム』は次なる指令を下す。 指令は微弱な電気信号となって、脳髄から延びた特定の神経回路を駆け下りていく。 「ンああ」 腰の奥へと辿り着くと、電気信号はそこにある『起爆装置』を作動させた。 連鎖的に発生する、『反応』。 『起爆装置』から更に延びた神経。その内部を通りながら、電気信号は衝撃を伴うものへと増幅されていく。 その神経が最終的に行き着く場所は、生殖器官と呼ばれる領域。 「!!!」 ぐ、んッ!!! 電気信号を受け取り、その衝撃によって、限られた窮屈な空間の中で引っ張り上げられる、二つの『弾薬庫』。 『兵器工場』も兼ねているそれは、自らも収縮し、内部に蓄積、装填されている『弾薬』を押し出す。 極端に尾が長いオタマジャクシのような形状をした、リップ・セイバーの遺伝子情報を内包、搭載している『弾薬』。 左右合わせて71億3991万8553発の『弾薬』が、『兵器工場』から延びた管へと一気に放流された。 「!! …ッ」 量に対して些か狭過ぎる直径2mmにも満たない管。しかしそれは、極めて優秀な加速装置でもあるのだ。 内側より管を僅かに押し拡げながら、『弾薬』は尾をくねらせ、そのスピードを増していく。 鼠径部より体内へと延び、下腹部の底に立体的に敷かれた管。 行程の半分を過ぎ、『弾薬』は『ミサイル』へと変貌を遂げていた。 「んッ、ぐッゥ」 支流であった生殖領域から、砲身内部に続く本流への合流地点。 腹の最も深い部分に位置する、精嚢という名の工場で生産された白い粘液。 そして、前立腺という名の工場で生産された、透明な粘液。 『ミサイル』は合流地点を通過時にこれらと混ぜ合わされ、ミサイルの集合体である白い砲弾へと姿を変える。 「ゥゥッ」 海綿状組織への血液充填率は、120%を超えていた。 四方から圧迫され、より狭く細くなっている、内部に敷かれた通路。 しかしそれは、『生殖兵器』にとって好都合だった。 何故なら、更なる加速を得ることにより、目的の場所へ『白い砲弾』を届けやすくなるのだから。 「ンンぐゥッ」 一瞬、リップ・セイバーの肉体に電気が走ったかのように、彼の巨躯がビクンと動く。 120%の臨戦態勢にあった砲身が、瞬間的にその体積を増す。 根元から膨れ上がっていく裏筋。それは、その内部を『白い砲弾』が駆け上がっている証だった。 「んぐゥンおおおおおッッッゥ!!!」 びゅぐびゅぐびゅぐびゅぐッ!!! 『生殖プログラム』が指令を下し、僅か3秒にも満たない時間。 ロックオンする標的も定めぬまま、リップ・セイバーは咆哮と共に射精した。 脳髄を激しく灼く、射精による快楽。 彼の腰は無意識の内に、虚空へ突き上げるように動いていた。 『ミサイル』の集合体たる、大量の寒天状の白い塊。 狭いシャワールームの壁に飛び散り、タイルの隙間に一部を残しながら、極めてゆっくりとした速度で垂れ落ちていく。 「あアアッ、ああアッッ、あがはアアアアッッ!!!」 『生殖プログラム』だけではない。リップ・セイバーの意識も肉体も、射精による快楽を欲していたのだ。 本能と意識と肉体が共通の目的で重なった瞬間、彼は狂戦士と化した。 「んごオオオオッ! んぐォッ! んごほォォッ!! うングおおオオオオッッッ!!」 びゅるびゅるッ! びゅぶッ! びゅるるるッ!!! 無茶苦茶に腰と共に砲身を突き上げながら、ひたすら射精の快楽に狂うリップ・セイバー。 其処にいるのは、一匹の発情した大型の『オス』だった。 こうなっては、体内に装填された『弾薬』を吐き出しつくすまで、彼の『プログラム』が解除されることはない。 内側から控え室の鍵を閉めてあったのが幸いだった。 『弾薬庫』内の残り弾数は、348億7610万9917発。 リップ・セイバーの本能と快楽の宴は、まだ続くのだ。